スピーチ集

平成22年度千葉大学卒業式学長告辞

本日ここに卒業式を迎えられる卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。

 この記念すべき日にどうしても申し上げなければならない悲しい出来事が日本に起こりました。東北関東の太平洋沿岸を中心に起こりました地震と津波のことです。これほど発達した人類の文明が、自然の強大な力によって一瞬にしてこんなにも打ちのめされることを、どれほど想像出来たでしょうか。ただただ悲しいという言葉しかありません。この不幸の中ではありますが、今こそ、われわれの力を最大限発揮してこの危機を乗り越えて、新しい日本へ回復させようではありませんか。このことを改めて認識しながらこの卒業を迎えてほしいと思います。 

本日一緒にご卒業される2,426名の皆さん、卒業される今日という日まで、いろいろなご努力があったことと思います。そして、そのようなご努力を続けてこられた皆さんを大変誇りに思うとともに、心から敬服いたします。そして、今日ご卒業されますことを大変嬉しく思い、改めて“おめでとう”と言いたいと思います。そして、その喜びはあなた方を今日まで育ててこられたご家族、そして関係する多くの方々のお喜びでもあり、その方々にもお祝い申し上げます。 

そして、私たち教職員は皆さんが入学されてから今日まで、喜びの時も、悲しい時にもそして怒りの時にも、時にはそれを共有し、時には反発しあって、時には皆さんに助けられ、時には助けてきました。そんな皆さんと共に過ごすことのできた日々を教員として、職員として、いつまでも誇りに思っています。共に学んだ仲間として、いつまでも、そしていつでも助け合うことのできる仲間であり続けたいと思っています。 

さて、皆さんは卒業という日を境に今までとは違った世界への挑戦が始まるわけであります。皆さんはいろいろな道に進まれることでしょう。また長い人生の中にはいろいろな変化に遭遇することでしょう。それらを時には楽しみ、時には乗り越えて、あらたな世界を切り開いていってほしいと思います。そのようなことを果敢にやれるような力、いわば基礎体力を身につけられるように在学中に教育を受けてこられたと思います。卒業ということを境に、学ぶことや、いろいろな新しいことに挑戦していくということが終わるわけではなく、新たな挑戦が始まるということだと思います。これからの学ぶ日々について何が大事でしょうか。何が大事とお考えでしょうか。

これからの皆さんは、よりすばらしい世界をつくるために、環境問題や文化あるいは科学の発展などすべての領域において、国内だけではなく、世界の人々と共に生きていくという考え方が強く求められていると思います。もし演劇の世界に例えるならば、あなた方のこれからの舞台は世界なのだということであります。あなた方は役者として、その舞台で演ずるということなのだと思います。そのような例えで考えるとき、実際の仕事の中で実践していくうえであなた方に求められていること、すなわち必要なことは何でしょうか。日本には日本特有のすばらしい文化も歴史も、教育も、科学もあります。そして、それを支えてきた日本人が作り上げた日本という社会があります。したがって、私たちの多くはその歴史も社会の仕組みも、人間性も深く深く日本を知っている、いわば日本についてのプロであると思います。それはそれとしてすばらしいことだと思います。昔より“一芸に秀でるものは多芸に通ずる”と言われ、ひとつのことを深く極めることによって、多くのことを理解できるという例えとしてその大切さを教えられてきました。このこと自体間違っているとは思いませんし、ある意味大切なことだと思っています。しかし、すべてこの考えで今日を生きていける条件になるかというと、必ずしもそうではないと思います。皆さんは大学で学んだ専門性を生かして、その発展に貢献されようとしていると思います。また、社会はそのようなことをあなた方に求めています。その時あなた方は、大学で学んだひとつの専門性を駆使して問題の解決にあたろうとします。首尾よく解決することもあるでしょう。しかし、ひとつの分野では解決しえない問題が起こることもあるということは容易に想像できることだと思います。ある病気を治療するためのひとつの機械をつくるという課題があったとしましょう。大学で学んだ機械をつくるという技術を利用して、目的とした効果を示す製品ができる見通しができたとしましょう。さて、それで研究者としてあなたに求められた課題はすべて解決したといえるでしょうか。現代においては、製作者にはそれが真に病気の治療に役立つという理論的な根拠が求められるでしょうし、製作者としてそのことに答えることが求められるでしょう。そして、その製品が人道的に許されるものかどうかということには、心理学や法律家の知恵も必要となるかも知れません。そのような領域に対しても、専門家の意見を聞く前に自らもそれらに対して意見を持つことが求められていると思います。すなわち、一芸は多芸に通ずる、という考えが間違いではなく、それはそれとして、いろいろな分野にも知識、考え方を持ち、それらを縦横無尽に駆使して目的に向かうという姿勢が求められるようになっているということではないかと考えます。別な観点から考えますと、例えば日本を深く知ることによって他の国々をある程度理解はできても、それ以上にその国の歴史や文化は多岐にわたる特徴を持っているのであり、その理解なくして真の理解は生まれてこないと思います。世界の人々と共に生きていくためには、日本のプロであるとともに、その国のプロであってはじめて友好的になり得るのではないでしょうか。日本と世界という中から新しい文化を作り出し、世界平和を、人類の幸福を目指して活躍してくださることを願うものですが、そのためには日本のプロというだけではなく、共に歩む世界の国々について、世界の国々の人々についてプロであってほしいと思います。あなた方が生きていくこれからの舞台は、日本という国に限定されるのではなく、まさしく世界であり世界の人々との共演が求められているということを忘れないで下さい。

学問の領域であっても、そのようなことは起こっています。それは、いくつかの領域が協働して行う領域、すなわち複合領域の創成です。本学においても活発に行われていると思いますが、ある目的のために理系と文系が一緒になって研究が進められることや、物理と化学、医学と工学の共同研究などが活発に行われていることをみてきたと思います。それらは常に目的に向かって新たな領域が生まれていることを示すものであり、それが有効な手段であり、新たな学問領域が生まれる時でもあると思います。自分の世界に閉じこもることなく、広く周囲を見ていくことの大切さを知ることであります。

今日の卒業式を迎えるまで、皆さん本人のご努力はもちろんですが、皆さんの周りの多くの方々のお力添えのあったことに感謝の気持ちを忘れずに、素直に表現してほしいと思います。皆さんの輝かしい未来を信じて卒業に際してのお祝いの言葉といたします。

平成23年3月23日
千葉大学長 齋藤 康