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平成30年度千葉大学大学院入学式 学長告辞

掲載日:2018/04/12

 千葉大学大学院に入学された皆さん、入学おめでとうございます。向学心、研究心にあふれる皆さんを国内のみならず、世界各国から迎えられたことを、大きな喜びとしております。教職員一同とともに、皆さんの目標達成に協働できることを楽しみにしています。また、ご家族の方々のご臨席に心より感謝申し上げますとともに、入学された方々の学問への旅立ちを温かく見守ってくださるようお願い申し上げます。

 大学院に入学された皆さんには、これまで受けてきた高等教育の集大成として、学術の理論及び応用を研究し、高度の研究能力や専門学識を究め、専門性の高い職業を担うための卓越した能力を培っていただきたいと思います。特に、大学院における教育研究活動のなかで培っていただきたい能力として、知性を磨いてほしいと思います。創造的に考える能力である知性は、皆さんが大学院で行う研究活動の過程で磨かれます。難しい研究課題の解明に向けて、これまで培ってきた知識に基づく知能を最大限に駆使して研究活動を続ける中から、ご自身の知性を磨き深めていってください。

 私も、今から約40年前に皆さんと同じように千葉大学の大学院に進学し、研究活動をスタートさせました。その後、大学教員として35年に亘り研究活動を継続してきました。そこで、後輩の皆さんへ激励の意を込めて、私がこれまでの研究活動の過程で考えてきたことや、皆さんに是非とも心掛けていただきたいことについて述べてみます。

 私は、学部3年生の時の微生物学の講義から、全ての感染症に効果のあるワクチンを作りたいと思い、大学院で免疫学の研究を始めました。当時は細胞培養法が確立した時期であり、免疫担当細胞であるリンパ球の機能に関して細胞培養法を用いて研究し、多くの成果を挙げることができました。そして、大学院在学中に米国のスタンフォード大学に留学しました。この留学時代に、ワクチンの原動力である免疫記憶細胞の分化に関する研究をスタートさせました。

 留学3年目に大学院時代のメンターだった教授から助手ポストのオファーがあり、帰国して免疫記憶細胞の分化に関する研究を継続しました。しかし、帰国後数年すると細胞培養法だけでは免疫記憶細胞を長期間にわたって観察することができないため研究が行き詰ってしまいました。また、この頃から免疫学研究も遺伝子操作技術を応用した分子免疫学が主流となり、免疫担当細胞の機能に関しても遺伝子レベルで解明しないと、インパクトの高い業績は出せなくなってきました。

 そこで、助手となって4年目に主任教授から2年間の休職を許可してもらい、ドイツのケルン大学に二度目の留学をしました。そこでは遺伝子操作技術を一から学ぶとともに、留学2年目に当時最先端の胚工学技術の可能性を知る機会を得ました。マウスの受精卵に遺伝子操作して、遺伝子改変マウスを作製する技術です。その時即座に、この胚工学技術を応用すれば年余にわたって経過観察を必要とする免疫記憶細胞の分化を遺伝子レベルで解明できると気づきました。そこで、ケルン大学の指導教授にハイデルベルグ市にあるヨーロッパ分子生物学研究所を紹介してもらい、半年間にわたり内地留学してこの新技術を修得しました。その後は、千葉大学にもどり、胚工学技術を応用した免疫記憶細胞の分化に関する研究を継続してきました。そして、最終的にその分化に関するマスター遺伝子を同定することができました。

 全ての感染症に効果のあるワクチンを作りたいという学生時代の夢は実現に至りませんでしたが、その夢の実現に少しでも近づけたと自負しています。しかし、もし大学院生の時にスタンフォード大学へ留学して免疫記憶細胞の分化に関する研究をスタートさせていなければ、また、もし助手の時代に研究の新展開を求めてケルン大学へ再度の留学をしなければ、学生時代の夢の実現に向けた研究テーマを30年以上に亘って追い続けることは決してできなかったでしょう。これらの経験を通して私は、これから研究を始められる皆さんに心掛けていただきたい二つの点をお伝えします。

 一つ目は、異分野における科学技術の革新を見逃すなということです。私の場合は、細胞培養技術、遺伝子操作技術、胚工学技術など当時の最先端の科学技術を研究に取り入れたことにより、一つの研究テーマを長年にわたり追求し続けることが出来ました。そして、現在の科学技術の革新に関して私が注目しているのは、人工知能・AIに関する技術的革新です。インターネットの普及とコンピュータの高速化により膨大な電子データを短時間で集積できるようになったことや、デープラーニング法が開発されたことなどにより、AIの技術的進化が加速度的に速まっています。このようなAIの技術を様々な研究分野でも積極的に取り入れていかなければならない時期が来ていると思います。皆さんがこれから始められる研究分野においても、進化したAIを取り入れた新たな研究展開が必須となることでしょう。

 二つ目は、人格の修養に励んでいただきたいことです。研究者にとって、常に素晴らしいデータを出し続けることは不可能です。データの出ない時期に如何に研究活動を継続していくかという点に、その研究者の人格が強く反映されます。そして、人格的に優れた研究者のみが、困難な時期にも周りからのサポートを受けて研究活動を続けていくことが出来るのです。私の場合は、二度にわたる海外留学を暖かく見守ってくれた指導者、共同研究者や同僚たち、寝食を忘れて研究に没頭できる環境を支えてくれた友人や家族のサポートがなければ研究を続けることはできなかったでしょう。ですから研究者にとっては、素晴らしい研究成果を挙げることも重要ですが、それ以上に自らの人格の修養に努めることが大切です。

 人格の修養に、教科書はありません。人生の師となるような研究者から直接的な指導を受けることが必要です。私の場合は、大学院時代のメンターがまさに人生の師であり、研究以外の面でも多くの薫陶を受けました。そこで、皆さんが大学院で研究指導を受ける時に、単に技術的な面の指導ばかりでなく、研究者としての人間性や研究課題に対する哲学的な面での指導も受けるようにしていただきたいと思います。更にそのような人生の師となる方を、メンターや教授陣ばかりでなく共同研究者や海外の研究者などからも積極的に探し求めて、指導を受けるようにしてください。この点は、専門職学位課程の皆さんにとっても同様です。素晴らしい指導者から受ける薫陶は、皆さんの人格形成に大きな影響を与えることとなり、皆さんの人生における宝物となることでしょう。

 皆さんには、これから大学院で学術の理論、高度の専門学識を究めていただき、将来は研究者や実務家としてグローバル化社会の第一線でリーダーとして活躍されることを願っています。そのためには、「つねに、より高きものをめざして」、真摯な探究心、研究心を持ち続けるとともに、研究活動を通して創造的に考える能力である知性を磨き、素晴らしい指導者から多くの薫陶を受けることにより、ご自身の人格の修養に努めてください。皆さんのこれからの大学院生活が実り多きものとなり、人間的にも大きく成長されることを心から願って、告辞といたします。

平成30年4月5日
千葉大学長 徳久剛史