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平成30年度 千葉大学大学院修了式・学位記授与式 来賓講話

掲載日:2019/03/30

  本日は千葉大学大学院修了、誠におめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。皆様は大学院在籍時代は、充実した時を過ごされた事と思います。これから社会に飛び立たれますと、これまでに経験した事のない種々の局面に立ち向かう事になると思いますが、常に前向きな態度を維持し、充実した人生を送られる事を心より祈念致します。

  個人的には、私が社会に出る際考えた事は、協調(cooperation)と独自性(originality)です。すなわち、周囲の皆さんと良く話し合い、楽しい生活環境を作る事と、仕事においては、出来るだけ他の人がやらない分野を手掛ける事を目指しました。手前味噌で恐縮ですが、私がこれ迄歩んで来た道を紹介させて頂きますので、参考にして頂くか、反面教師にして頂ければ幸いです。お話が少し専門的になりますが、分野が異なる方には御勘弁の程お願い申し上げます。

  私は千葉大学大学院薬学研究科修士課程修了一回生第一号です。全く不思議な因縁で、今ここに居ります。大学院が始まったばかりで、先生方がとても親切に教えて下さり、研究の面白さを実感し、私も研究者を目指したわけです。しかし、試薬を買うにも、1ドル=365円の時代でままならず、私は修士修了後にアメリカで研究する道を選択しました。就職先は、アメリカ東部の名門のアイビー・リーグ8大学の1つであるペンシルバニア大学医学部でした。そこに日本人の先生が教授をしておられ、御世話になりました。そこで抗生物質の作用機作の研究を行いました。

  現在日本は、細菌感染に依る病気が少なく、売上高トップ100の医薬品のうち、わずか2種が抗生物質ですが、当時は多くの抗生物質が市販されていました。その中で、リボソームに作用する抗生物質の作用機作を研究し、最初に微生物の蛋白質合成メカニズムを明確にしました。私が実験を始めた時は、開始tRNAであるfMet-tRNAは他のアミノアシルtRNAと同様にリボソームのA-サイトに結合し、その後P-サイトに転移すると考えられていました。しかし、私が実験をやってみますと、開始tRNAは直接P-サイトに結合しました。これが、現在、生化学の教科書に記載されています。これにより蛋白質合成メカニズムが明らかとなり、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、ストレプトマイシン、エリスロマイシン等の作用機作が明確となりました。この研究成果により、エリスロマイシンを開発したアボット社より、アボット賞を受賞し、5大湖のほとりにあるアボットの研究所を訪れる機会を得、5大湖の素晴らしさを堪能致しました。

  帰国後は大阪大学微生物病研究所で1年半働きました。研究室は腸炎ビブリオが生魚による食中毒の原因菌である事を見つけられた食中毒の権威の藤野先生、竹田先生の研究室でした。その為、1980年代後半にベトナム戦争で、アメリカ軍の兵士が食中毒で死者が出た際、この細菌毒素がどのようなものか検討する事を依頼されました。その食中毒菌が、大腸菌O157で、毒素成分はヒトの80Sリボソーム中の28SリボソーマルRNA中のA-4324を切り取るRNA N-グリコシダーゼである事を見つけました。この発見は、アメリカの生命科学の研究の中心地であるワシントンのNational Institute of Healthで非常に喜ばれ、セミナーに訪れた際は、とても歓迎されました。日本でも大腸菌O157による食中毒は1992年に初めて報告され、大腸菌O157による食中毒は日本でもとても有名になり、現在に至っております。

  千葉大学薬学部には、1971年4月から勤める事になりまして、ポリアミンの研究を開始しました。ポリアミンは2価カチオンのプトレスシン、3価カチオンのスペルミジン、及び4価カチオンのスペルミンから成り、リューベンフックが17世紀に顕微鏡を発見した際に見つけた物質です。細胞中に存在する低分子物質では、ATPと共にmMのオーダー存在する細胞増殖因子で、リューベンフックが精液中から見つけた為、その機能はDNAからのRNA合成の促進因子と考えられていました。しかし、私共がポリアミンの生理機能を検討した処、ポリアミンは主としてRNAと相互作用し、蛋白質合成レベルで働く事が判り、最近の生化学の教科書は、ポリアミンは転写、翻訳両レベルに作用するというように書き換えられました。更に、ポリアミン合成酵素の遺伝子ノックアウトマウスを作製し、ポリアミンが細胞増殖に必須である事を証明しました。

  以上の業績により平成17年度の日本薬学会賞を受賞することができました。これらは、教職員並びに学生さんの協力により得られたものであり、改めて皆様に感謝申し上げます。

  千葉大学を定年退職後、もう少し研究を続けたかったので、千葉大亥鼻イノベーションプラザで、株式会社アミンファーマ研究所を設立し、この会社を千葉大発ベンチャー第2号として認めていただきました。ここでは高齢時の細胞障害因子アクロレインの研究を行っています。高齢時の細胞障害因子は依然として、多くの研究者の方が、活性酸素であると考えておられますが、最近は私共のアクロレイン説が段々と認められてきております。活性酸素は不飽和脂肪酸の酸化により産生されますが、不飽和アルデヒドであるアクロレインはポリアミン中のスペルミンの酸化により産生されます。毒性はアクロレインの方が活性酸素より10倍以上強く、アクロレインの脳梗塞への関与は間違いないものです。

  私共は現在「脳梗塞リスク評価」事業を行っていますが、内容は血漿中のアクロレイン量に加え、その防御因子であるインターロイキン-6とC反応性蛋白質を測定します。年齢を加味してリスク値を求めます。このリスク評価では無症候性の小さい脳梗塞を約85%の精度で見つけることが出来ます。実際にこのリスク評価を健康診断に取り入れたある健康保険組合では、この5年間で脳梗塞発症患者数が半分以下に減少し、非常に喜ばれています。リスク値の高かった人が、御自分の生活習慣に気を付けられた為の成果です。この業績により、平成26年に産学官連携功労者表彰 経済産業大臣賞を受賞し、平成29年には文部科学大臣表彰 科学技術賞を受賞しました。

  以上、私は最初に申し上げましたように、協調(cooperation)と独自性(originality)を重視し、研究生活をさせて頂き、人生を楽しんでおります。

  これで、私の手前味噌の話をおしまいとさせていただきますが、独自性のある研究生活が社会にも少しは役立っていることを皆様に理解して頂き、皆様の人生の生き方の参考にして頂けたら幸いです。本日を一つの起点として、皆様がこれから素晴らしい人生をお送りされる事を心から切望し、私の話をお開きとさせていただきます。どうも有り難うございました。

平成31年3月26日
千葉大学名誉教授・株式会社アミンファーマ研究所代表取締役社長 五十嵐 一衛