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平成31年度千葉大学大学院入学式 学長告辞

掲載日:2019/04/10

 千葉大学大学院に入学された修士課程、博士課程、専門職学位課程の皆さん、入学おめでとうございます。向学心、研究心にあふれる皆さんを国内のみならず、世界各国から迎えられたことを誇りに思っています。教職員一同も、皆さんの目標達成に協働できることを楽しみにしています。また、ご家族の方々のご臨席に心より感謝申し上げますとともに、入学された方々の学問への旅立ちを温かく見守ってくださるようお願い申し上げます。

 大学院に入学された皆さんは、これまで受けてきた高等教育の集大成として、学部での経験と実績を基に、学術の理論及び応用を研究し、高度の研究能力や専門学識を深め、専門性の高い職業を担うための卓越した能力を培っていただきたいと思います。さらに将来にむけて、専門分野のリーダーとして必要とされる知性と教養を高めるように努力してください。

 このリーダーに必要とされる知性と教養の中で、創造的に考える能力である知性は、大学院において行う研究活動のなかで磨かれます。大学院では与えられた課題に対して決して安易な解答を選択することなく、その時点でベストの解答を見出す努力を続けることにより知性を磨いてください。また教養とは、単なる知識だけでなく、それを高めようと努力する過程で柔軟な思考や多様性に富む発想を身に付けることが出来るようになります。これまで磨いてきた知性を基に、幅広い教養を身に付けるように努めてください。海外留学をして、民族や生活様式の異なる国の文化・芸術に触たり、価値観の異なる外国人研究者や実務家と一緒になって研究活動をするのも良いでしょう。すでに千葉大学は、多様な留学プログラムや留学先を準備していますので、皆さんの目的にあった留学プログラムを利用して海外での活動を通して皆さんの教養を高めてください。

 私も、今から約40年前に皆さんと同じように千葉大学の大学院に進学しました。その後、大学教員として35年に亘り大学院時代の研究テーマの解明に向けた研究活動を続けてきました。そこで、後輩の皆さんへの激励の意を込めて、私の経験の中から今の皆さんにとって大切だと思うことを二つお伝えしてみます。

 私は、学部時代の免疫学の講義から、全ての感染症に効果のあるワクチンを作りたいという夢を描き、大学院へ進学しました。そして、大学院在学中に米国に留学し、ワクチンの原動力が免疫記憶細胞であることを見出し、その細胞の分化に関する研究をスタートさせました。その後、大学教員として研究を継続する中から、遺伝子レベルでの解析が必須であると考え、遺伝子操作技術の習得を目的としてドイツに二度目の留学をしました。そこで当時最先端の胚工学技術の進歩を目の当たりにして、その技術を取り入れた免疫記憶細胞分化に関する研究を30年間にわたり継続してきました。そして最終的に、その分化のマスター遺伝子を同定することができました。全ての感染症に効果のあるワクチンを作りたいという学生時代の夢は実現に至りませんでしたが、その夢に少しでも近づけたと思っています。

 このような私の経験から皆さんに伝えたいことの一つ目は、研究活動において最新の科学技術を見逃すなということです。私の場合は、遺伝子操作技術の習得目的で留学した先で、胚工学技術という当時の最先端の科学技術と偶然出会い、その技術を研究に取り入れたことにより、一つの研究テーマを30年の長きにわたり追求し続けることが出来ました。この最新の科学技術を見逃さないという心掛けは、研究活動ばかりでなく、皆さんが将来社会で活動する時にも必要となるでしょう。

 そして、現在の科学技術に関して私が特に注目しているのは、人工知能・AIと遺伝子ターゲティング技術です。AIは、ほとんど全ての分野で積極的に取り入れていかなければならない時期が来ていると思います。特に、量子コンピュータが実用化されてくればAIは爆発的に進化・普及してくると予想されるので、皆さんがこれから始められる研究分野においても、早晩進化したAIを取り入れた新たな研究展開が必要となることでしょう。また、最新の遺伝子ターゲティング技術では、染色体ゲノムの中の目的のDNA配列部位に100%確実に外来遺伝子を挿入できるようになってきており、農産物の品種改良やヒトの遺伝子疾患への治療応用など、生物学や生命科学の分野では非常に重要な技術となるでしょう。

 次に、私から皆さんに伝えたいことの二つ目は、人格の修養に励んでいただきたいことです。私は、研究内容とその成果は研究者の人格の表れであり、素晴らしい研究成果を残したかったら、人格の修養にも努めなければならないと思うようになりました。そして、人格の修養に励んでいる研究者のみが、周りからのサポートを受けて生涯にわたり研究活動を続けていくことが出来ると思っています。私の場合は、二度にわたる海外留学を暖かく見守ってくれた指導教授、共同研究者や同僚たち、寝食を忘れて研究に没頭できる環境を支えてくれた家族や友人たち、彼らと巡り合い、彼らのサポートを得ることが出来た結果、一つの道を長年にわたり継続し続けることが出来たと思っています。

 人格の修養に向けた教科書としては中国の古典である論語や菜根譚などが有名ですが、私はこれらの書物からよりも人生の師となるような方から受けた直接的な指導の方がより大きな影響を受けました。私の場合は、大学院時代のメンターがまさに人生の師であり、研究以外の面でも多くの薫陶を受けました。そこで、皆さんが大学院でメンターや指導教授から研究指導を受ける時に、単に技術的な面の指導ばかりでなく、研究者としての人間性や研究課題に対する哲学的な面での指導も受けるようにしていただきたいと思います。更にそのような人生の師となる方を、共同研究者や海外の研究者などからも積極的に探し求めて、指導を受けるようにしてください。この点は、専門職学位課程の皆さんにとっても同様です。素晴らしい指導者から受ける薫陶は、皆さんの人格形成に大きな影響を与えることとなり、皆さんの人生における宝物となることでしょう。

 皆さんには、これから学術の理論、高度の専門学識を究めていただき、将来は、研究者や実務家としてグローバル化社会の第一線でリーダーとして活躍されることを願っています。そのためには、「つねに、より高きものをめざして」、真摯な探究心、研究心を持ち続け、研究活動を通して知性を磨き、豊かな教養を身に付ける努力を続けるとともに、ご自身の人格の修養にも努めてください。皆さんのこれからの大学院生活が実り多きものとなり、人間的にも大きく成長されることを心から願って、告辞といたします。

平成31年4月5日
千葉大学長 徳久剛史