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令和元年度卒業生代表挨拶

掲載日:2020/03/23

  新型コロナウイルスの感染拡大に伴う世界的な混乱の中、本日開催されるはずであった卒業式に向け、準備を進めていただいていた徳久学長を始め諸先生方、職員の皆さん、ならびに関係するすべての方に、卒業生を代表して心より御礼申し上げます。刻々と変わりゆく状況を見極めながら至った、苦渋の判断であったと想像されます。そうした意思決定の過程での多くの皆様のご尽力に、心より感謝しております。

  私がこの大学に在籍した4年間は、2016年4月の熊本地震に始まり、本日に至るまでたくさんの混乱が続く4年間でした。もちろんこの4年に限った話ではありません。先日「Fukushima50」として映画となった2011年の原発事故も含め、日本に限らず世界中の人たちが、日々予測不可能な新たな課題に直面しています。こうした諸課題の解決へ取り組むべく、千葉大学に10番目の新学部として設立されたのが、本日私が卒業する国際教養学部です。

  私自身は、幼い頃から映画などエンターテインメントの制作に携わり、語りを通して人々にメッセージを伝えたいと考えてきました。映画などはよく「娯楽」とされ、学問や研究よりも低俗なものと位置付けられがちです。しかしその学問は、細かく分化し専門性が高くなった結果、多くの人にとって「遠い」ものになってしまっているのではないでしょうか。世間の多くの人が論文を日常的に読まないように、残念ながら学問は、アカデミアにいない多くの人には直接語りかけることができていないと思われます。それでも現代社会の多くの課題の解決には、一人ひとりの行動変容が重要で、そのためには認識が変わるきっかけが必要になります。その点、「娯楽」とされる映画などのエンターテインメントは、立場を超えてより多くの人に影響力があり、広く認識を変えていくことができる力のあるものだと考えています。そこで高校生だった私は、将来的に学問を裏づけとしたエンターテインメントの制作に携わっていきたいと考え、まずは現代世界が抱える様々な問題について考えたいという思いから、この国際教養学部に入学しました。

 千葉大学の国際教養学部は、特定分野の範疇に収まらない課題に取り組むために、学問分野の垣根を超えて幅広く学びながら課題をベースに研究を進めていく場です。私たち学生は幅広く学ぶ中で、自分自身の関心の軸に関係する専門領域を見つけながら、議論し、知識を深めていきます。私の場合は、ジェンダーについての表象をめぐる議論が自分の生活上抱いてきた違和感と合致し、学部生時代の研究の主軸とすることができました。映画やそれを取り巻くビジネス展開を主に研究対象とし、留学先のニューヨークで学んだフィルムスタディや、千葉大学で学んだ言語人類学などをベースに学際的な研究を行ってきました。様々な学問に触れたことで、日常的に感じている違和感や問題意識に、学問的にアプローチし、思考し、議論できるようになったことは、私がこの4年間で得た新たな楽しみの一つであると確信を持って言えます。一方で、多様な関心を持ち、各々異なる専門分野を学ぶ仲間たちとの共同学習・プロジェクトには難しさもありました。

  こうした経験から、私は、我々大学を卒業する者がこれから共通して直面することになる課題が二つあると考えています。まず一つ目は、お互いの文脈が異なることを認識した上で、課題解決に向け向き合い続けねばならないということです。例えば、私は学部でそれぞれ専門の異なる先生方の授業を履修してきました。そこで驚かされたことの一つが、分野による考え方や認識の違いです。同じ言葉・概念を一つとっても、前提とすることが異なるわけです。それでも一つの専門領域には限界がありますから、対話し学び合い続けねばなりません。これは、我々が社会に出て色々な専門知を持った者同士と共同していくにあたり心に留めねばならないことです。

  二つ目は、専門知に迅速な課題解決を求めることに起因する矛盾です。国際教養学部では、あらゆるプロジェクトにおいて、課題を見つけ、解決の方法を探るよう鍛えられてきました。しかし、昨今の混乱でも顕著なように、専門知と迅速な課題解決は必ずしも相性が良いとは言えません。迅速な判断が求められる現場において専門知は時に厄介なものとされます。それでも、急いで結論を出すことに伴う危険性も自覚せねばなりません。一方で、原発を巡る騒動では、過度な専門家幻想・依存に起因する問題も我々は目にしてきました。専門知を持つもの同士はもちろん、それを持たない多くの人とのコミュニケーションも十分に取る必要があります。

  これらの問題や矛盾に向き合うことは、現実社会に対して専門知を持ちながら渡り合う我々の責任だと、私は考えています。職に就く者も、研究を続ける者も、これからの我々は、どんな立場に立っても、このカオスな現実に対し常に矛盾を孕みながらも意思決定をしていくことを迫られます。その際、互いをリスペクトし合いながら、刻々と変わりゆく状況を見極め、議論し、次にすべき判断をしていくことで、一人でも多くの人が生きやすい社会を作っていくことができると考えています。そのために、学び続け、他者と向き合い続けていくことこそが、本日卒業する我々の使命であると、私は信じています。

  最後になりますが、本日までご指導、ご支援して頂いた諸先生方、職員の皆様、刺激を与え合った仲間たち、そして様々な面で支えてくれた家族に、心より感謝いたします。千葉大学に関わる全ての皆様のご健康と、更なる発展を願い、挨拶といたします。

令和2年3月23日
卒業生代表
国際教養学部国際教養学科
山本恭輔