千葉学ブックレット発刊記念座談会

県民と地域社会、大学が一体に 各分野にまたがる総合的なシリーズへ

「千葉学ブックレット」の発刊は、千葉大学が地域貢献の一環として地域社会と積極的にコンタクトを取り、地域社会に役立っていくことを基本理念として、地元の新聞社である千葉日報社に版元になってもらい、県民に対しいろいろな問題提起をしながら、県民と地域社会、大学の研究者が一緒になって文化的なレベルアップを図りたいという思いから企画させてもらったものだ。このブックレットは、大学の日ごろの研究成果を踏まえて、総合大学としての利点を踏まえて、将来的には各分野にまたがる総合的なシリーズとして育てていきたいという構想も持っている。本日はブックレット発刊の記念座談会とし、県民の代表である堂本暁子知事にも加わってもらい、率直な意見交換をしたい。(司会・中村攻千葉大学教授のあいさつから)

出席者
国立大学法人・千葉大学学長(当時) 古在豊樹氏
千葉県知事(当時) 堂本暁子氏
千葉日報社社長 赤田靖英
〔司会〕国立大学法人・千葉大学教授(当時) 中村攻氏

堂本 多様性の文化に可能性
古在 競争より"共生"大事に

中村 最初に、千葉というところはどんなところか、千葉に対する印象や特徴などから話に入っていきたい。

堂本 千葉を考える場合、縦軸と横軸があると思う。縦軸で言うと、歴史的には古代から黒潮と親潮の出会う珍しい地域として、温暖な気候だけでなく、人々がこの地を選んで住まうことをさせた。紀伊半島から京の文化や宗教が伝わり、千葉に根付かせたし、近世では佐原のように“小江戸”と呼ばれ、江戸の文化が花開いた。
横軸では、終戦のとき二百万人だった県人口がこの六十年間で四百万人も増加した。人々が多様な文化を持って集っており、多様性の文化があるが故に新たな可能性が芽生えていると思う。

古在 今まで千葉県全体のPR不足もあって、歴史でも文化、芸能でも県民にさえあまり千葉県が知られていなかった。千葉といえば、東京ディズニーランドとか東京湾アクアライン、成田空港など比較的新しいものが挙げられていた。それに対し、これは堂本知事の功績ではないかと思っているが、新たに歴史や観光に目を向けたことは素晴らしいことだ。私の印象では、千葉には外房も内房もあり、自然豊かな海岸線も多様で、これは千葉県の宝物だと思っている。
千葉の人の県民性は、競争が苦手で“競争より共生”を大事にしているようだ。二十一世紀はそうした生き方、考え方をそれはそれで大いに大事にしていくことも大切ではないか。千葉大学は知事と共鳴する点が多く、最近では地域連携などもポジティブに反応してもらっているので、そうした県民性を生かしていってもらいたい。

赤田 千葉県は何より自然が豊かで、穏やかな気候からあくせくしなくても暮らし向きに困らない。そういう県民性だから、古くから千葉には文人、墨客が多数来たり移り住んだりしているが、文化的にはもうひとつだという印象。それは地元新聞社の力不足もあるかもしれないが、今回「千葉学ブックレット」が刊行される運びとなったので、そうした視点からも力不足を補っていきたい。

中村 私も千葉県に住んで三十年以上になり、大学で地域計画学を研究しているが、千葉は日本の国土の縮図のようだ。年間十万人もの人口増加をしている地域もあれば、山村の良さが残っている地域もある。この間それぞれの地域が過密や過疎など深刻な問題を抱えていながら、可能性を新たに展開できる要素のある県だなと思っている。
しかし、大学も自治体も、県民もみんな東京を向いている。例えば、東京の大学には目が向いても千葉の大学にはなかなか目が向かない。千葉都民という言葉があるが、どうやらそれがネックになっている。お互いに千葉の持っている多様な顔やいろいろな財産に、しっかりと目を向けていくことが大切ではないかと考えている。

赤田 経済界との連携を期待
中村 大学は地域の問題語れ

中村 次に大学への期待についてご意見を聞きたい。

堂本 昔は“象牙の塔”などと言われて、研究者は研究者、行政は行政という時代があったが、今は完全に変わってきている。今日のキーワードは、画一的ではなく多様性だ。そうした多様性がつなぎ合わされることによって、ソーシャルキャピタルと称されるような地域の力につながる。大学が産学官のつなぎや地域のつなぎを担うなど大学のあり方も変わってきた。
こうした意味で大学に期待したいのは、研究に裏打ちされた知の拠点としての役割だ。県と千葉大学は今回、健康福祉や教育、街づくりなどの共同事業や人的交流を推進するため包括的な連携協定を締結したが、県だけでなく大学にとっても相乗的な効果があると思う。大学への期待は限りなく大きい。

赤田 私が入社した昭和四十年代は、千葉大学といえば医学部が全国的にも有名だったが、最近では合計一万五千人もの学生が学ぶ総合大学となった。従って、学生が学んだ結果を千葉で生かしてもらいたいという思いがある。特に最近では経済界との連携も強まっているので、地域連携をさらに深めていくべきだと期待している。

古在 千葉県や言論界から期待されて大変光栄だ。ぜひこれに応えていきたい。二十世紀の学問は、より狭くより深く、より大きくより小さくというように何かに特化した形でやってきたが、それだけでは世の中は必ずしも幸せになれないことが分かってきた。環境もおかしくなってきたし、そういうことに気づき始め、反省も始まり、いろいろな分野の専門家が集り、社会的な問題を解決する役割がクローズアップされてきている。それによって新しい学問が創成されている。 そういう点で千葉大学には多くの研究者がいるし、そうした研究を結集すれば相当なことができる。幸い千葉大学は学部間の垣根が低いので、そうした可能性に挑戦しているところだ。教育でいえば今、大学の教員が地元の現場にどんどん入っていく。教員が入れば学生も入っていくので、千葉県をフィールドにした研究論文が相当に増えているのは事実だ。
とにかく学生には千葉県に愛着を持ってもらい、できれば根付いてもらいたいし、卒業しても千葉県を思い続けるようになってもらいたい。そういう意味では教職員の意識も相当に変わってきたと言える。
私自身も農業を専門にやってきたが、一人の農家が本当に喜んでくれれば、どこの県でも、どこの国でも、世界中が喜んでくれると思ってやってきた。地元貢献でやっているが、本当に一生懸命やれば、世界に発信する貢献ができると思っている。

中村 私は京都にいたことがあるが、京都では世界的な景観条例ができた。大学が市民や行政に地域の問題を語りかけていくことで、市民も大学を身近に感じて信頼関係を築いていく。大学と市民が非常に近い関係で問題意識を高めていく。ぜひ千葉でもこういう関係を作っていきたい。
そこで「千葉学ブックレット」だが、千葉大学の中に房総研究会という組織を設け、県土と県民が抱えるさまざまな問題を調査した。市町村合併で揺れる中、 80%以上の市町村が協力してくれて、それぞれの地域の特性を勉強し、その中からともに考える場所を作っていくのが第一の目的で、そのための具体的な方法の一つとしてブックレットがあるわけだ。
次に、私たちも学問を問い直すというか、もう少し住民の生活に役立つという視点から新しい学問を創造していきたいという欲求が研究者の中にもある。
三つ目は、県の文化的土壌を育てる。これまでは成長が激しかったから、もっとじっくりと文化的土壌を育て、県土に広げていきたいという意味で、東京の出版社ではなく、千葉の言論界を育てていくという視点で千葉日報社に出版をお願いすることにしたわけだ。

堂本 一冊いくらくらいで販売するのか。

中村 八百円を考えている。

堂本 それは素晴らしい。

中村 最後に「千葉学ブックレット」への課題とか期待について一言づつ。

堂本 ブックレットという発想にはすごく感動した。大学の中には千葉県の研究はたくさんあると思うが、それは普通の人には分からない。ご自分の学問的な研究を一般の人向けに翻訳する作業がブックレットだと思うので、高く評価する。一般の人が読みやすい本となることを期待しているし、千葉県をPRする場合のツールにも使わせてもらいたい。

赤田 わが社では「千葉県美術家名鑑」の発刊など各種の文化事業を行っているし、「千葉文学賞」は今年で五十回目を数える。「千葉学ブックレット」の「千葉に目を向け、千葉を知り、千葉の未来を考える」というコンセプトは素晴らしいし、千葉大学と一緒にやらせてもらい、文化的土壌を広めていくことには大きな期待感を持っている。

古在 このブックレットは大学で行っている研究や教育、あるいは地域連携を県民の皆さんに知ってもらうことで人のつながりもできてくることが当面の目的だ。ブックレットは小中学校、高校の図書室にはぜひ置いてもらいたいし、県の機関にもお願いしたい。
千葉はこんなにも面白いのかとじわじわ広がり、他県から日本中に、そして世界に広がっていくような情報発信の場にしていきたいと願っている。大学の人間が寝転んで気楽に読める本を書くのはかなり苦しいのだが、これからの大学人にはぜひ克服しなければならない重要な仕事だと思っている。

中村 お忙しい中、長時間ありがとうございました。

千葉学ブックレット」のお問い合わせは043(227)0066千葉日報社出版局まで。

千葉日報(平成19年5月31日)より転載