特色ある研究活動の成果
Research

現代的課題に対応した保育者の専門性向上のための研修プログラムの開発

現代的課題に対応した保育者の専門性向上のための研修プログラムの開発

『保育ナビ』2015年3月号 特集記事

砂上 史子准教授

砂上 史子

Sunagami Fumiko

教育学部准教授

専門分野:保育学

 1994年富山大学教育学部幼稚園教員養成課程卒業。日本女子大学大学院、お茶の水女子大学大学院を経て、2001年弘前大学教育学部講師に着任。2005年千葉大学教育学部講師。2007年より現職。2013年白梅学園大学大学院にて、博士(子ども学)を取得。
  文部科学省中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会幼児教育部会委員、厚生労働省社会保障審議会保育専門委員会委員、内閣府幼保連携型認定こども園教育・保育要領の改訂に関する検討会委員を務め、平成29年3月31日告示の3法令(幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領)全ての改訂(定)に関わる。

どのような研究内容か?

 近年、ノーベル賞経済学者のジェームズ・ヘックマンの幼児教育への投資効果に関する研究等から、就学前教育の重要性が国際的に注目されています。質の高い保育・幼児教育は、生涯にわたって人間の発達に重要な影響を及ぼす忍耐力や協調性、自尊心などの非認知的能力(社会情動的スキル)を育み、その結果、学力の向上のみならず、成人期の所得向上、犯罪率や社会保障受給率の低下等につながることが明らかになっています。
 現在、都市部を中心に深刻となっている「待機児童問題」により、保育の受け皿の拡充が急務となっています。しかし、「保育の量」と同時に、「保育の質」を向上させることも必要不可欠です。「保育の質」を担保する最大の要因は、保育士や幼稚園教諭等の保育者の質、すなわち保育者の専門性の質です。その保育者の専門性の向上のための研修プログラムの開発を目指しています。具体的には、非認知的能力の重視や社会的養護の増加等の現代的課題を踏まえ、保育者の感情リテラシー(情動性知能)や、施設入所児や要支援家庭児への対応に焦点を当てています。

何の役に立つ研究なのか?

 保育者の専門性の中でも、保育・幼児教育の現代的課題を踏まえ、保育者と子どものやりとり(コミュニケ―ション)の質に直結する感情リテラシーや、実際の保育現場で保育者が直面する多様なニーズを持つ子どもや保護者への対応に焦点を当てた研修プログラムを開発することにより、研究成果の実践的意義は大きく、それをほぼそのまま保育現場に還元することができます。これまでの研究成果は、自分が講師を務める現職保育士を対象とした研修会の研修内容に反映させたり、保育者を対象とした保育・幼児教育の専門誌等で特集として紹介したりしてきました。

今後の計画は?

 質の高い保育・幼児教育の肯定的影響は、貧困等の「リスクの高い」子どもにおいてより大きいことが明らかになっています。そこで、保育者の専門性の中でも、近年日本でも深刻化している児童虐待等によって、乳児院や児童養護施設等の社会的養護の下で育つ子どもに対する専門性に焦点を当て、そのための研修プログラムの開発に取り組んでいきます。保育士・幼稚園教諭、施設職員を対象にした心理教育に基づく試行的研修を実施し、その成果と課題を踏まえた独自の研修プログラムを開発する予定です。

関連ウェブサイトへのリンクURL

http://curt.chiba-u.jp/search/ResearcherDetail.aspx?resNo=2029

成果を客観的に示す論文や新聞等での掲載の紹介

・砂上史子(編著) 2017 『保育現場の人間関係対処法 事例でわかる!職員・保護者との付き合い方』中央法規
・砂上史子 2017 「保育者を取り巻く現状とその支援~保育者の感情労働とバーンアウト~」 『家族心理学年報,35:個と家族を支える心理臨床実践Ⅲ――支援者支援の理解と実践』 pp.38-43
・砂上史子 2016 「特集【第14弾】子ども・子育て支援新制度と乳幼児期の教育について考える:子どもを健やかに育む『正しい愛情と知識と技術』」 『保育通信』,第740号(2016年11月号) 公益社団法人 全日本私立保育園連盟 pp.6-10
・砂上史子(監修) 2016 「特集:保育者が育つ,育ち合う職場づくり―職員のメンタルヘルスのために―」 『保育ナビ』,第7巻第9号(2016年12月号) フレーベル館 pp.10-21
・砂上史子(監修) 2015 「特集:今、保育における感情リテラシーを考える 職員が"辞めない"職場、"育つ"職場とは?」 『保育ナビ』,第5巻第12号(2015年3月号) フレーベル館 pp.14-25

この研究の「強み」は?

 

 保育者の専門性向上にあたって、この研究では、臨床経験豊富な研究者らと協同して、発達心理学や臨床心理学の特に最新の知見や実践に基づいて開発された心理教育的介入プログラムを保育者研修に導入することで、保育・幼児教育と臨床心理学との接続を強化することを意図しています。このことにより、開発した研修プログラムを通して、保育者の実践知(practical knowledge)を活かしながら、多様な子どもや保護者のニーズや課題に対応する保育者の専門性の向上に寄与できると考えられます。

学生や若手研究者へのメッセージ

 第二次世界大戦の終戦から間もない1951(昭和26)年の5月5日に、全ての子どもの基本的人権とその幸福を図る児童福祉の理念を反映した児童憲章が制定されました。このなかに「すべての児童は、家庭で正しい愛情と知識と技術をもつて育てられ、家庭に恵まれない児童には、これにかわる環境が与えられる」という条文があります。この条文では「愛情」の前に「正しい」という形容詞が置かれています。「大きな愛情」でも「深い愛情」でもない、「正しい愛情」というこの言葉は、子育てにおいては、愛情の「量」よりもむしろ「質」が重要であることを示唆しています。また、愛情に続けて「知識と技術」という言葉が並置されています。子どもを育てるには愛情だけではなく、知識と技術もまた必要だということです。それらは人間に生まれつき備わっているわけでも、親になれば自然と湧いてくるわけではないことは、児童虐待の深刻さが証明しています。つまり、子どもを育てるためには、我々は「正しい愛情と知識と技術」を学ばなくてはならないのです。そして、それを備えた専門職が保育士・幼稚園教諭等の保育者です。保育・幼児教育を学ぶ人や研究する人は、常にその役割と責任の大きさを意識してほしいと思います。

『保育現場の人間関係対処法』