特色ある研究活動の成果
Research

デザインの新しい挑戦 人間工学×医工学

デザインの新しい挑戦 人間工学×医工学

研究代表者:下村 義弘
共同研究者:
①氏名、②フリガナ、③ローマ字表記、④所属部局名、⑤職名、⑥専門分野
①川平洋、②カワヒラヒロシ、③Kawahira Hiroshi、④フロンティア医工学センター、⑤准教授、⑥内視鏡外科学、消化器外科学
①五十嵐辰男、②イガラシタツオ、③Igarashi Tatsuo、④聖隷佐倉市民病院泌尿器科、⑤部長、⑥泌尿器科学

Fig1:人間工学に基づいて設計、評価された外科用剪刀の製品

下村 義弘

下村 義弘

Shimomura Yoshihiro

大学院工学研究院(デザインコース)教授

専門分野:人間工学、生理人類学

平成7年3月千葉大学工学部工業意匠学科 卒業
平成12年3月千葉大学大学院自然科学研究科博士後期課程環境科学専攻修了 博士(工学)
平成12年4月千葉大学大学院自然科学研究科 助手
平成16年2月千葉大学フロンティアメディカル工学研究開発センター(現フロンティア医工学センター)(兼務)
平成19年4月千葉大学大学院工学研究科 准教授
平成21年9月生理人類士1級(アメニティプランナー)(日本生理人類学会専門士認定制度)平成27年4月千葉大学大学院工学研究科(現工学研究院) 教授
2008年度、2009年度、2011年度グッドデザイン賞、2012年度人間工学グッドプラクティス賞特別賞、2014年度日本生理人類学会論文賞、2016年度日本生理人類学会奨励賞、特許・実用新案・意匠登録8件、その他出願14件。

どのような研究内容か?

 製品のデザインといえば、格好いいもの、かわいいものを思い浮かべがちです。ところが千葉大学が考えるデザインは少し違います。私たちはデザインを、今までにない新しいものを、美しさと機能を両立させて作ることと考えています。そのため製品の形や色のみならず、使いやすさや、快適さという視点が重要になってきます。この時必要なのが、ユーザ(使用者)である人間そのものを知るということです。人間工学とは、人間の身体機能と作業能力の関係を調べる学問領域です。この人間工学が、デザインを生み出す方法として今、注目を集めています。
 人の命を預かる医療の現場では、医師や看護師といったユーザは極めて大きなストレスの中で働いているにも関わらず、一瞬のミスも許されません。そのような現場で使われる製品を、人間工学を用いてユーザの身体機能に合うようにデザインするという方法は、理にかなっていると言えます。医療従事者に優しい医工学デザインは次世代の医療環境の創出につながり、最終的には患者や家族の生活の質の向上にも貢献すると考えています。
 私たちの医工学デザインは、人間工学を基礎として次のような流れで行われています。

Step1:ユーザの身体的負担や、わかりにくさ、やりにくさといった視点から臨床現場の課題を抽出します。
Step2:関連する先行事例と既存技術を調べ、最も効率的な解決案を探ります。
Step3:現場での使い方をベースとして、人間の解剖や運動特性、認知特性に合わせて具体的な形状や仕組みを発想して、試作します。
Step4:筋電図や動作解析といった生体測定実験などを通して、試作物の評価とデザインへのフィードバックを繰り返します。
Step5:共同研究先の企業などと議論し、製造・販売上の課題をクリアして最終製品の仕様に行きつきます。

 この開発方法はユーザが人間であるかぎりあらゆる物に適用することができます。医療用剪刀(図1)、内視鏡外科鉗子(図2)、栄養状態評価用メジャーテープ(図3)、超音波診断装置(図4)、胸腹水濾過濃縮装置、腹膜透析装置の補助用ハンドル(図5)など、様々な使いやすい製品に結実しています。

何の役に立つ研究なのか?

 

 人間工学に基づいたデザインは、身体的な負担を軽減したり、わかりにくさを改善したりします。負担が減れば疲れにくくなり、長時間の使用や難しい作業もしやすくなります。またわかりやすいことは余分な精神的負担を減らし、ヒューマンエラー(本人も予期しない誤り)を防止します。そのため製品を使うシーンで要求される本来の作業に集中しやすくなります。
 このように製品使用時のユーザ個人の能力を伸ばすという役に立つほか、個人を束ねる組織においても、全体の生産性を高めることになります。大学や企業においてはユーザを大切にしているという姿勢を示すことにもなり、社会的責任の実現に貢献します。

今後の計画は?

 医療や看護、福祉に関する道具や機器は、残念ながら使いにくいものが多いのが現状です。未開拓の領域に、人間工学によるデザインを次々に投入していきたいです。

関連ウェブサイトへのリンクURL

千葉大学人間生活工学研究室
千葉大学デザインコース

成果を客観的に示す論文や新聞等での掲載の紹介

外科用剪刀
http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/00140139.2015.1037362?journalCode=terg20
内視鏡外科鉗子
http://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/00140139.2015.1075603
NHKニュースシブ5時(2015年8月、人間工学的視点による化粧療法についての取材)
NIKKEIプラス1 生活発見(2012年9月、人間工学的視点による箸の正しい持ち方についての取材)
REAL DESIGN(枻出版、2010年9月、特集記事「人間工学とデザイン」の取材)

この研究の「強み」は?

 生み出されたデザインが、身体の仕組みや現場での使い方といった根拠に基づいて発想され、客観的に評価されていることです。また研究者が人間工学を使うことで、一過性の勘に左右されず、あいまいさを回避しながら自信を持ってデザインの仕事を進めることができます。

研究への意気込みは?

 医師や看護師など異なる領域の人々とともに研究グループを形成し、協力し合って一つのゴールに向かうことに研究の醍醐味を感じます。千葉大学にはこのコラボレーションの土壌があり、全国でも有数の医工学の連携拠点となっています。また人間工学は千葉大学のデザインコースならではの特徴でもあります。今後は千葉大学が、快適な医工学デザインを生み出す研究拠点になることを願っています。

学生や若手研究者へのメッセージ

 デザインの価値を決めるのは、デザイナではなくユーザです。よいデザインを生み出すためには、ユーザを知る必要があるのは言うまでもありません。ユーザの立場に立ってデータを読み解くことがデザイナに気付きを与え、発想の元にもなります。使いにくいものがあったらぜひ人間工学的に考えてみてください。

Fig2:ヒトの手の構造に合わせて作られた内視鏡外科鉗子のハンドルモデル

Fig3:測定精度を高め、測定にかかる時間も短縮させた、下腿周囲長メジャーテープの製品

Fig4:超音波診断装置のプローブ(探触子)と画面の人間工学的実験の様子

Fig5:腹膜透析装置に取り付けて4つの操作を行いやすくするハンドル(試作時の3Dプリントモデル)