特色ある研究活動の成果
Research

ナノスケールの探針を使った新規半導体材料の伝導特性評価

ナノスケールの探針を使った新規半導体材料の伝導特性評価

図1 走査ゲート顕微法(SGM)の概略図

青木 伸之

青木 伸之

Aoki Nobuyuki

大学院工学研究院准教授

専門分野:半導体物性

1998年に北陸先端科学技術大学院大学で博士(材料科学)を授与されたのち、千葉大学工学部物質工学科助手として赴任。その後、日本学術振興会海外特別研究員(2004~2005年、兼任)にてアリゾナ州立大学に渡り走査ゲート顕微法の研究手法を確立した。2012年より科学技術振興機構さきがけ研究者(兼任)に採用され、フラーレンを用いた万能性基幹分子の研究も開始した。半導体低次元構造における物性を輸送現象観点から研究を進めてきた。

どのような研究内容か?

 これまで様々な種類の顕微鏡が開発されてきましたが、私たちが得意としている顕微鏡は、ナノスケール(ナノメートルは10^(-9) m)に尖らせた針を使った走査プローブ顕微鏡(SPM)の一種で、「走査ゲート顕微法(SGM)」と呼ばれる顕微技術です。これを使うと半導体の素子(電界効果トランジスター)の中で、どのように電子が流れていて、どこが障害になっているのか、といった情報を視覚化することができます。これまでの評価法では、ゲート電圧を印加して、素子全体の特性を一括して評価してきました。SGMでは、導電性のSPM探針を「局所的な可動ゲート電極」として利用することで、ナノスケールで局所的に素子の評価が可能になりました。探針の位置を移動させながら試料に流れる電流の値をモニターしていくと、ある特定の場所で電流値の変化が観測され、その場所で何かが起こっていると特定することができます。また、同時に取得できる探針-試料間に働く電気的な力をマッピングする静電気力顕微鏡(EFM)を用いることで、表面電位(電圧)の分布を調べることができます。これらを組み合わせた「複合プローブ顕微法」を用いると、これまでの評価手法では分からなかった、誰も予想しなかった現象の発見につながります。

何の役に立つ研究なのか?

 半導体素子の中での伝導現象が、どこで何が起こっているのかを特定することができます。一例を挙げると、二硫化モリブデンという2次元電子材料で構成されたトランジスター構造をSGMで観察したところ、金属電極に沿って二硫化モリブデンの中に電流値の変化(SGM応答)が観測されました。この部分を同時に観測されるEFM像などを用いて複合的に検証すると、電極に沿って半導体としての性質の異なる部分ができていて、その境界部分には電子の伝導を阻害するエネルギー障壁が形成されていることがわかりました。このように、私たちはSGMを中心とした複合プローブ顕微技術をもとに、新しい半導体材料における伝導メカニズムに迫る研究を進めています。

今後の計画は?

 SGMを使って観てみたい構造はいくつかあります。たとえば遷移金属ダイカルコゲナイド物質には結晶多形という特徴があり、化学式では同じでも、違う結晶構造が現れます。通常は2Hという半導体的な性質をもっていますが、少し原子の並び方が違う1Tや1T'という構造もあり、それは金属的な性質を示します。この2Hと1T(1T')構造の接点における伝導がどのように接続されているかに興味を持っています。これを複合プローブ顕微法で調べれば、その接点において伝導障壁があるのかないのか、といった問題を明らかにできると期待しています。その結果をもとに、結晶多形で構成された新しい伝導素子として応用していければと考えています。

関連ウェブサイトへのリンクURL

http://adv.chiba-u.jp/nano/qnd/index.html

成果を客観的に示す論文や新聞等での掲載の紹介

"Nanoscale-Barrier Formation Induced by Low-Dose Electron-Beam Exposure in Ultrathin MoS2 Transistors", M. Matsunaga, N. Aoki, et al., ACS Nano, 10, 9730 (2016), DOI: 10.1021/acsnano.6b05952
"二硫化モリブデン電界効果トランジスタに対する電子線リソグラフィの影響", 松永正広, 青木伸之, Jasco Report, 59, 13, 2017.

この研究の「強み」は?

 私たちが進めているSGMは、伝導現象の測定技術とSPMの操作技術の両方に自信がなければ実現することはできません。また、観測された画像を、ときに想像力をもって、正しく理解することも大切な技術となります。そのため、このSGMの技術を持つ研究グループは世界でも10に満たないと思います。この強みを生かして、千葉大から情報を発信していきたいと思っています。

研究への意気込みは?

 これまでは「きっとこうなっているはず」と「想像」してきた伝導現象を、視覚化することで場所を特定して現すことができます。こうなっているのか、こんなことが起こっているのかという現象を突き止め、その場所を特定することができます。誰も知らなかった現象を見つけて「こうなっているんだ」ということがわかる瞬間が嬉しいですね。

学生や若手研究者へのメッセージ

 大学の研究室で日々の研究課題を進めているだけでは新しい技術や研究手法を導入することは困難です。海外に出て、自分で悩み、問題解決することを体験することで、自身の研究レベルを飛躍的にアップすることができることがあります。チャンスがあればぜひ若いうちに海外に出て、何かを掴んで帰ってくることをお勧めします。それをもとに、自分にしかできない、他の人に負けない研究手法を確立し、それを生かして研究を飛躍させたらどうでしょうか。

MoS2-FETで観測された局所トランジスター応答像(SGM:左)と表面電位分布像(EFM:右)。