特色ある研究活動の成果
Research

雲の構造を詳細に捉える高感度高分解能ミリ波ドプラーレーダー

雲の構造を詳細に捉える高感度高分解能ミリ波ドプラーレーダー

研究代表者
鷹野 敏明
共同研究者
①氏名、②フリガナ、③ローマ字表記、④所属部局名、⑤職名、⑥専門分野
①中田 裕之,②ナカタ ヒロユキ,③NAKATA Hiroyuki,④大学院工学研究院,⑤准教授,⑥電波物理工学、電波科学
①大矢 浩代,②オオヤ ヒロヨ,③OHYA Hiroyo,④大学院工学研究院,⑤助教,⑥電波物理工学、電波科学
①河村 洋平,②カワムラ ヨウヘイ,③KAWAMURA Yohei,④理工系事務部工学部,⑤技術専門職員,⑥電波観測装置開発・運用

図1-FALCON-I 写真など:
高感度高分解能のミリ波雲レーダー FALCON-I は、直径 1m のアンテナ2つで構成されています。片方のアンテナから電波を天頂方向に放射し、雲で散乱されて戻ってきた電波をもう一方のアンテナで受信して、雲の高度断面図が得られます。 95 GHz (波長 3.2 mm) の高い周波数の電波を使用しているので、従来の気象レーダーでは見えなかった淡い雲や詳細な構造・運動を解明することができます。通常は、右写真の奥にあるコンテナ内に設置され、天井のテフロン窓を通して天頂付近の雲を常時定常観測していますが、トラックに載せてどこへでも移動して観測することが可能です。

鷹野 敏明教授

鷹野 敏明

TAKANO Toshiaki

大学院工学研究院教授

専門分野:電波物理工学、電波科学

1983年に名古屋大学で理学博士号取得。その後ケルン大学(ドイツ)でフンボルト財団研究員などを務め、1988年から国立天文台、1997年から千葉大学工学部に勤務する。主に自然界の電磁波の発生・伝搬現象を観測解析し、そのメカニズムや意味するところを解明する研究を行っている。

どのような研究内容か?

 地球に降り注ぐ太陽からのエネルギーは、地球上すべての生命を支えています。地球大気中の雲は、太陽からの光などを反射したり、また地上から宇宙へ放射される熱を留めたり、エネルギー収支を解き明し、地球環境がどのように変化していくかを調べる上で大変重要な役割を果たしています。また、地球温暖化の影響もあり、集中豪雨や局地的高温、海洋条件変化、極地域の気温上昇など、多くの問題に雲が関与しています。しかし、雲についてはまだわかっていないことが多くあります。そのような雲を、高感度高分解能で電波観測を行うことで、詳しい内部構造や運動状態を捉え、雲の生成発達と降雨などの関連を調べる研究を行っています。私たちは主に電波を用いたリモートセンシングの観測的研究を行っています。雲以外の対象についても、電波観測で様々なことがわかります。自然界では、人間の想像を超えるような現象が起こることがよくあります。そのような現象を見るために、独創的な装置を開発し独自の手法で観測・解析の研究を進めています。

何の役に立つ研究なのか?

 私たち千葉大のグループが独自に開発した、ミリ波ドプラーレーダー FALCON-I(図1), FALCON-A(図2) は、周波数 95GHz (波長 3.2ミリ) の電波を用いており、気象観測では実用化されている最も高い周波数です。そのため、対象の構造を詳しく見るための感度と分解能が高く、他のレーダーの追随を許さない高性能を発揮できます(図3)。その、高感度高分解能で、雲や降雨の詳細や、空中を浮遊する昆虫など、これまでに見えなかったモノが初めて見えることが、この研究の最も面白いところです(図4)。最近、各地で被害が出て問題になっている、いわゆるゲリラ豪雨の卵の積乱雲や、そこから大量の降雨が生成される過程などが、FALCON-I, FALCON-A の高感度高分解能観測で明らかになってきており、豪雨災害の予測などに役立つと期待されています。

今後の計画は?

 私たちは FALCON-I (FMCW(=Frequency Modulated Continuous Wave) Radar for Cloud Observations, Mark I)を日本国内、千葉大学に設置して 2004年から定常的観測を行っています。FALCON-A (for Arctic) は、国立極地研究所との共同研究で、北緯 79°のノルウェースバールバル諸島ニーオルスンに 2013年に設置して現在まで定常観測を行っています。地球環境変化を追うためには、長期の観測が大切ですので、これまでの数年~十数年の観測結果をまとめ、さらに、他の観測機器との同時観測で得られた結果を考察することを進めます。雲の構造や内部運動を高感度高分解能で得ることは、雲そのものだけでなく、地球大気圏の様々な現象を解明することに役立つ可能性があります。そのような方向についても、発展させたいと考えています。

関連ウェブサイトへのリンクURL

http://katla.nd.chiba-u.jp/intro/fmcw.html

成果を客観的に示す論文や新聞等での掲載の紹介

『NHK スペシャル シリーズMEGA CRISIS 巨大機器 ~脅威と闘う者たち~ 第1集 加速する異常気象との闘い(2016年9月4日(日) 21:00~21:49 放送)』で、ミリ波ドプラーレーダー FALCON-I が積乱雲を捉えた結果について紹介されました。

この研究の「強み」は?

これまで、気象観測としてはほとんど行われていなかった、95GHz という高い周波数の電波を用いることにより、高感度と高分解能で雲を観測できるようになったことが、この研究の強みです。また、この装置 FALCON-I, FALCON-A を、メーカーに頼らず独自に開発・製作したことも、他者がマネできないユニークな点です。

研究への意気込みは?

これまでに見えなかったことが見えるようになる、ということは、研究に全く新しい拡がりをもたらします。FALCON-I は空中に飛翔している 0.2mm 程度の昆虫や植物の種子を検出することができます(図5)。このことから、農作物の害虫である昆虫が、海を渡ったりしてどのように飛来するか、気象条件はどのようか、などを知り、駆除や防御に役立てるなどの可能性が拡がってきます。

学生や若手研究者へのメッセージ

何事も、自分の頭で考えて、(他人の意見にも耳を傾け、)責任をもって結論を出して、実行して行ってほしいと思います。

その他

この研究に貢献して下さった研究者の方や、研究室のスタッフおよび学生・院生の方に、心から感謝したいと思います。また、研究を実施できる千葉大学のこの環境に、感謝しております。

図2-FALCON-A 写真など:
ノルウェー領スバールバル諸島ニーオルスンの国立極地研究所(立川市)の北極基地(北緯79°)に設置されているミリ波雲レーダー FALCON-A(左上の写真)とコンテナ(左端の緑のコンテナ)。2013年9月に運搬・設置され、以来、冬期も含めて24時間常時観測を行っています。装置の状態は千葉大からインターネット経由で監視して、故障の場合はリモートで復旧し、それでもダメな場合は現地に行って修理します。冬は一日中真っ暗でオーロラが良く見えて、夏はトナカイや北極キツネがすぐそばまで来たり、時々シロクマも出没するところです。

図3-FALCON-A ドップラー:
FALCON-A の観測結果の例。縦軸が高度で横軸が時間の図(左下図)を見ると、4~5層の雲が見えています。このように下層のやや濃い雲を透過して上層の淡い雲がみられるのは、ミリ波を用いた FALCON の強みです。この、13:59:10 UT(世界時=日本時間-9時間) のドップラースペクトルマップが右下図に示されています。ドップラーマップは、横軸の中央は 0m/s で、右(左)端は +(-)3.16m/s の速度で視線方向で遠ざかる(近づく)、今の場合は上(下)向きの方向、の運動を示しています。この図を見ると、4~5層の雲内部での複雑な上下方向運動が見えます。たとえば最上層の雲の底、高度 5km のところは、下向き -1.5m/s の速度で落ちてきている雲の成分が見え、逆にその下の層の雲上端では上向き +0.5m/s の速度で上昇している雲の成分が見えます。

図4-FALCON-I 浮遊虫:
ミリ波雲レーダー FALCON は高感度高分解能であることから、空中に浮遊している昆虫や植物の種子などを、ひとつひとつ分解して観測できています。下図で、12:40 (JST:日本時間) 以降は高度 0~4 km まで降雨が見えますが、それより前の時間の 0~1 km の高度に、多数の点状の反射物体(エコー)が見えます。上図はその拡大です。これを詳しく調べると、サイズが 1~2 mm 程度以下にもなるエコーであることがわかります。このようなエコーは、日の出とともに増加し日の入りとともに減少すること、北極に設置した FALCON-A や、FALCON-I を観測船に搭載して洋上での観測では捉えられていないこと、冬に少なくなること、などから、主に空中を飛翔・浮遊している昆虫と考えられます。

図5-FALCON-I 浮遊虫密度:
空中を飛翔・浮遊している物体を調べるために、係留気球に捕虫ネットを取り付けて、高度 300m まで揚げて採集する実験を行いました(右下写真)。日出後から日没まで約3時間ごとに捕虫網をあげ下ろしして、昆虫や植物種子などが捕獲できました(上段写真)。これを、FALCON-I で観測された点状のエコーの数と比較した結果、FALCON-I の方が密度が高く観測できていることがわかりました。つまり、FALCON-I が高感度であることで、空中に浮遊している 0.1 mm 程度の物体までつぶさに観測できていると考えられます。この FALCON の高感度高分解能の特徴は、花粉や火山灰の拡散などのリモートセンシングにも応用できる可能性があります。