特色ある研究活動の成果
Research

福島第一原発の汚染水から放射性物質を除去する吸着繊維の実用化

福島第一原発の汚染水から放射性物質を除去する吸着繊維の実用化

図1 セシウムおよびストロンチウム除去用吸着繊維の汚染海水への試験導入

斎藤 恭一教授

斎藤 恭一

Saito Kyoichi

千葉大学大学院工学研究科教授

専門分野:化学工学、高分子材料、吸着分離

1994年から千葉大学工学部で仕事をしています。担当授業科目(学部)は「微分方程式」,「化学英語1,2」,「理系の作文とプレゼンの学習法」です。放射線グラフト重合法によって高分子吸着材を作るのが得意です。

どのような研究内容か?

私たちの研究グループは,東京電力㈱福島第一原子力発電所で発生する汚染水の処理に『使い勝手のよい』吸着材の形態として繊維に着目しました。2011年3月のメルトダウン事故の直後から,市販のナイロン繊維を出発材料にして,放射線グラフト(接ぎ木)重合法を適用して,セシウムとストロンチウムを選り好みして捕捉する無機化合物を固定した新しい『吸着繊維』を作り出し,実用化しました。
現時点で,福島第一原発でサブドレンから汲み上げた汚染水の処理に吸着繊維フィルターが利用されています。また,港湾内汚染海水からの放射性セシウムやストロンチウムの除去に組み紐に成型した吸着繊維の利用が試験されています(図1)。さらに,排水路(20か所),タンクの側溝,および雨水桝に,組み紐状吸着繊維が設置されています(図2)。このように吸着繊維の使いやすさと除去性能の高さが認められ,現場で利用されています。

何の役に立つ研究なのか?

東電福島第一原発では,メルトダウンした核燃料の注水冷却が続いています。注水冷却に使用した水から逆浸透膜(RO)モジュールを使って淡水を製造し,注水冷却に循環使用しています。その循環している水に,毎日300トンの地下水が山側から原子炉建屋に流入し混ざるために,ROモジュールの濃縮側から,毎日300トンの汚染水(この汚染水をRO濃縮塩水と呼ぶ)が発生します。また,福島第一原発の1~4号機取水口前の海水エリア内に,原子炉建屋から漏出した汚染水の一部が流れ込んで海水が汚染されています。さらに,原子炉建屋内の水位を調節するための建屋周囲に設置されている井戸(サブドレン)から汲み上げた水も汚染水の一つです。
RO濃縮塩水,港湾内汚染海水,あるいはサブドレン水中の放射性物質を,吸着材を使って除去する作業を汚染水処理と呼びます。処理方式には,ポンプを使って吸着材充填装置に汚染水を流通させる方式と汚染水へ吸着材を直接投入後に回収する方式とがあります。汚染水処理後には放射性物質を吸着した吸着材は放射性廃棄物として保管する必要があるので,その体積を減らすことができる吸着材であることが望ましいと言えます。千葉大学の研究室で生まれた吸着繊維は,どちらの処理方式にも対応でき,また,回収後にポリマー部分を焼却して体積を減らすことができるという点でもスグレモノです。

今後の計画は?

福島第一原発では,今後40年間,廃炉作業が続きます。また,停止している日本各地の原発が再稼働を始めることになるでしょう。さらに,海外,特に,中国,インドで多くの原発が建設中です。万が一の原発事故に備えた放射性物質除去用材料,例えば,放射性ヨウ素吸着フィルターの開発を進めています。

関連ウェブサイトへのリンクURL

研究室のホームページ

東京電力のホームページ

成果を客観的に示す論文や新聞等での掲載の紹介

2015年4月,第27回中小企業優秀新技術・新製品賞の優秀賞を受賞しました。この賞は,(公財)りそな中小企業振興財団と日刊工業新聞社が主催し,経済産業省中小企業庁が後援しています。「放射性汚染物質の吸着除染材料の開発と製造」という技術について,千葉大学が㈱環境浄化研究所とともにこの賞の中で『優秀賞』を受賞し,さらに千葉大学は『産学官連携特別賞』を受賞しました。

学生や若手研究者へのメッセージ

ここで紹介した吸着繊維は,2011年3月の東日本大震災の後に,世界で初めて開発された吸着材です。まず,千葉大学の学生11名が4か月で作製を成功させ,その後,後輩学生がこれまで改良を重ねてきました。課題解決に真剣に取り組む学生の参加を待っています。

図2 セシウム除去用吸着繊維のタンクの側溝および雨水枡への設置