特色ある研究活動の成果
Research

「自然」がうつ病患者、高齢リハビリ患者らにもたらす生理的効果

「自然」がうつ病患者、高齢リハビリ患者らにもたらす生理的効果

研究代表者
宋 チョロン
共同研究者
①氏名、②フリガナ、③ローマ字表記、④所属部局名、⑤職名、⑥専門分野
①池井 晴美,②イケイ ハルミ,③Ikei Harumi,④(国研)森林研究・整備機構森林総合研究所,⑤研究員,⑥自然セラピー学、環境健康学
①宮崎 良文,②ミヤザキ ヨシフミ,③Miyazaki Yoshifumi,④環境健康フィールド科学センター,⑤教授,⑥自然セラピー学、生理人類学

図1. うつ病患者実験の風景および自律神経活動の変化
被験者数:29名、平均±標準誤差、*:統計的有意差あり

宋 チョロン特任助教

宋 チョロン

Song Chorong

環境健康フィールド科学センター特任助教

専門分野:自然セラピー学、環境健康学

2010年 韓国忠南大学校 卒業
2012年 千葉大学大学院 園芸学研究科 博士前期課程 修了
2015年 千葉大学大学院 園芸学研究科 博士後期課程 修了(農学博士)
2015年 千葉大学環境健康フィールド科学センター特任助教として着任

どのような研究内容か?

 現代のストレス社会において、「自然」がもたらすストレス緩和効果やリラックス効果に注目が集まっています。本研究においては、高いストレス状態にあり、社会的にも関心の高い①うつ病患者、②脊髄損傷患者、③高齢リハビリ患者を対象として、ビオトープと盆栽がもたらす生理的リラックス効果について明らかにしました。
 ①うつ病患者:男性うつ病患者29名を対象とし、医療機関の外壁に施工された小規模な滝と池を有するビオトープを4分間眺めてもらい、その時の自律神経活動を計測しました。その結果、ビオトープを眺めることによって、リラックス時に高まる副交感神経活動が上昇し、ストレス時に高まる交感神経活動が抑制されることがわかりました(図1)。
 ②脊髄損傷患者:車椅子にて自走可能な男性脊髄損傷者24名を対象とし、ヒノキ林を模した盆栽を1分間眺めてもらい、その時の脳活動(左右前頭前野活動)と自律神経活動を計測しました(図2)。その結果、左前頭前野における酸素化ヘモグロビン濃度が低下し、脳活動が鎮静化すること(図3)、副交感神経活動が上昇し、交感神経活動が抑制されること(図4)がわかりました。
 ③高齢リハビリ患者:通院ならびに入院中の高齢リハビリ患者12名を対象としました。上記②と同様の盆栽を1分間眺めた結果、副交感神経活動が上昇し、交感神経活動が抑制されることがわかりました(図5)。
 本研究によって、ビオトープと盆栽が、高いストレス状態にある①うつ病患者、②脊髄損傷患者、③高齢リハビリ患者のストレス状態を緩和することが示され、「自然」がもたらす生理的リラックス効果をエビデンスに基づいて明らかにすることができました。

何の役に立つ研究なのか?

 「自然セラピー」は、予防医学的効果に基づいた概念です。現在のストレス社会において、自然由来の刺激に触れ合うことによって、生理的リラックス状態がもたらされ、低下していた免疫機能が改善され、病気になりにくい体が作られます。自然セラピーの解明と利用の促進は、今後、ますます進むと考えられているストレス社会において大きな意味を持ち、国民の健康増進に寄与すると期待されています。

今後の計画は?

 今後は、様々な未病状態の方々を対象として、自然セラピーがもたらす生理的リラックス効果に関するデータを蓄積し、自然セラピーが持っている予防医学的効果を明らかにしていきます。また、自然セラピーがもたらす効果においては個人差が存在することが知られています。これまで蓄積されたデータを用いてその個人差についても検討していきたいと考えています。

関連ウェブサイトへのリンクURL

自然セラピー研究室

成果を客観的に示す論文や新聞等での掲載の紹介

<原著論文>
・Song C, Ikei H, Nara M, Takayama D, Miyazaki Y. Physiological effects of viewing bonsai in elderly patients undergoing rehabilitation. Int J Environ Res Public Health 15: 2635, 2018. https://doi.org/10.3390/ijerph15122635
・Ochiai H, Song C, Ikei H, Miyazaki Y. Effects of visual stimulation with bonsai trees on adult male patients with spinal cord injury. Int J Environ Res Public Health 14: 1017, 2017. https://doi.org/10.3390/ijerph14091017

<学会発表>
・池井晴美、宋チョロン、宮崎良文ら。病院外壁ビオトープガーデンが通院うつ病患者に及ぼす生理的影響。日本生理人類学会第77回大会概要集61、2018。
・池井晴美、宋チョロン、宮崎良文ら。盆栽の視覚刺激が脊髄損傷者にもたらす生理的影響。日本生理人類学会第75回大会概要集73、2017。
・宋チョロン、池井晴美、宮崎良文ら。盆栽の視覚刺激が高齢リハビリ患者にもたらす生理的影響。日本生理人類学会第75回大会概要集46、2017。

この研究の「強み」は?

 自然セラピーは、「自然」を対象とした研究と「人」を対象とした研究が融合されて成り立つ研究分野です。しかし、日本においても、世界においても、この両分野の融合はなされていないのが現状です。我々の研究室では両方の視点から研究を進めており、その点に「Only one」としての「強み」があります。

研究への意気込みは?

 今後、自然セラピーがもたらす生理的リラックス効果に関するデータを蓄積し、自然セラピーが持っている予防医学的効果を明らかにしていきます。さらに、医療費の削減効果に言及することを目指して研究に励みたいと考えております。

図2. 脊髄損傷患者実験に用いた(a)盆栽および(b)脳活動と(c)自律神経活動の計測風景

図3. 脊髄損傷患者実験における脳活動の変化
被験者数:24名、平均±標準誤差、*:統計的有意差あり

図4. 脊髄損傷患者実験の風景および自律神経活動の変化
被験者数:24名、平均±標準誤差、*:統計的有意差あり

図5. 高齢リハビリ患者実験の風景および自律神経活動の変化
被験者数:12名、平均±標準誤差、*:統計的有意差あり