特色ある研究活動の成果
Research

農村ツーリズムとは何か?その意義と課題に迫る

農村ツーリズムとは何か?その意義と課題に迫る

写真1:観光経済学の第一戦の研究者による国際ワークショップを主催(2014年,成田)

大江 靖雄

大江 靖雄

Ohe Yasuo

大学院園芸学研究科教授

専門分野:農村経済学、農業経済学、観光経済学
1980年北海道大学大学院環境科学研究科修士課程修了
北海道主事,農林水産省北海道農業試験場研究員,同中国農業試験場農村システム研究室長を経て,1998年より千葉大学園芸学部助教授,2001年千葉大学園芸学部教授。博士(農学)。研究テーマは,農村ツーリズムおよび農村経済多角化の経済分析を通じて,農業や農村資源の新たな可能性と役割を明らかにすること。著書は「都市農村交流の経済分析」農林統計出版(2017) 「グリーン・ツーリズム-都市と農村の新たな関係に向けて-」千葉日報社 (2013),「農業と農村多角化の経済分析」農林統計協会(2003),など。Tourism Economics 編集委員, The Sohn Hai-Sik Award (Asia Pacific Tourism Association, 2010),Commended Paper Award(Tourism Review, 2009), 農業技術功労者表彰 (農林水産技術会議会長賞,2014),日本観光学会賞(図書賞)(2014),地域農林経済学会賞(2004),地域農林経済学会学会誌賞(1996),日本農業経済学会学会誌賞(1993),日本農業経営学会奨励賞(1994)

どのような研究内容か?

(1)農村ツーリズムとは、都市住民が田舎にのんびりと滞在して余暇を過ごすことで、そのサービスを提供する農家にとっては、過疎化・高齢化が進む農村部で、新たな所得や仕事を生み出す機会となっている活動です。
 農村ツーリズムは、いまや先進国のみならず、開発途上国の農村開発や活性化の有効な方策として注目を浴びています。その結果、その研究成果も世界中で増加していますが、その多くが事例分析で、理論的な一般化が進んでいません。また、統計的な手法の適用も多くはなく、客観的なエビデンス(科学的な根拠)に基づく実証分析も不十分です。
(2)そこで、本研究では、二〇年以上にわたるイタリアとの共同研究や国際的な研究者ネットワークの形成を踏まえて(写真1)、世界の共通言語であるミクロ経済学による農村ツーリズムの特徴を理論的に明らかにしました。また、実証的なエビデンスを、計量経済学という統計的な手法を用いて客観的に分析して、農村ツーリズムが成立するための経営経済的な要因や課題を明らかにしました。
(3)具体的には、農村ツーリズムの担い手の視野の拡大が重要な作用を果たしていることが判明しました。そのためには緩やかで広い人的ネットワークで、経験やノウハウをシェアしていくことが、重要であることがわかりました。
(4)さらに、農村ツーリズムを段階的にビジネス化していくプロセスを、「段階的農村プロダクト・イノベーション仮説」として提唱して、普遍性の高いミクロ経済学により理論化し(図1)、その具体的段階を計量経済学的手法で実証的に明らかにしました(図2)。
(5)その結果は、国や地方自治体の農村ツーリズムの政策や担い手育成の基礎資料として、役立てられています(写真2)。さらに、海外でも農村ツーリズムの経済分析の開拓者の一人として、高い評価を受けています。

何の役に立つ研究なのか?

(1)農村資源をさまざまに活用した農村ツーリズムが発展することで、若者をはじめ他世代の方々が農村で自立的に生活できるビジネスを生み出すことが可能となります。農村は、これまで都市部への食料生産の場でした。この役割は、人間が生き物である限り、これからも変わらないでしょう。
(2)これに対して、農村ツーリズムは、農村で宿泊や食事のサービスや体験の機会を、訪問者に提供する活動です。農村は、高ストレス社会となっている都市生活者の癒やしの場としての機能も重要となりつつあるのです。
(3)本研究は、時代の新たなニーズに応じた、こうした農村の新しい機能を明らかにして、それを生かした新たな農村の自立的なビジネスの条件を探ることを目指しています。また、農村ツーリズムの担い手を支援するための農村政策の基礎資料として活用されることも目指しています。
(4)以上を通じて、最終的に都市と農村の新たな相互関係を築くことに貢献することを目的としています。

今後の計画は?

 今後は、訪問者が農村に滞在することで生じる農村ツーリズムの健康増進効果などについて、自然科学分野との学際的研究を行い、より明確で総合的な科学的エビデンスを解明して、より有効な農村のコミュニティ・ビジネスの創出につなげたいと考えています。

関連ウェブサイトへのリンクURL

http://www.h.chiba-u.jp/academics/staff/ohe_y.html

成果を客観的に示す論文や新聞等での掲載の紹介

大江靖雄編著『都市農村交流の経済分析』農林統計出版,2017.
大江靖雄著『グリーン・ツーリズム』千葉日報社,2013.

この研究の「強み」は?

 本研究の「強み」は、理論的な貢献と実証的な貢献の二点です。第一に、これまで事例分析が多かった農村ツーリズムや都市農村交流の分析で、経済学のフレームワークを導入して、世界的に共通の理論的な枠組みで、その特徴を明らかにしたこと。第二に、実証面の研究として、現地での調査データから、統計的な分析を行い、自立した農村ビジネスに必要な経営的条件を客観的なエビデンスとして立証したことです。

研究への意気込みは?

 未だ誰もやっていない、未開拓な領域を開拓することのワクワク感をいつも味わっていたいというのが、変わらない研究のモチベーションです。もちろん、困難も少なくないですが、それをどうしたら克服できるのかを考えることも、研究を前に進めるために不可欠なことです。それらの困難の克服も含めたワクワク感が、私にとっての最大のモチベーションです。

学生や若手研究者へのメッセージ

 未知へのあこがれが、私の研究の最大の原動力です。好奇心とそれを探りたいという思い、そしてその思いを継続して、障害に出会ってもあきらめない粘り強さと行動力が重要だと感じています。

図1
初期e0:無料サービス提供段階から 
中期e1:部分的所得化段階 を経て
発展期en:完全所得化達成段階に段階的に到達

図2 都市農村活動の発展段階プロセスを、実証的に解明した。初期段階は、「地域の自信を醸成」から、「内外の人的ネットワークの形成拡大」を経て、新たなアイデアの実施段階に至ることを解明。

写真2 千葉県グリーンツーリズム担い手養成塾長として、研究成果の社会還元として、過去10年間継続して成果の活用と普及により人材育成(修了生とともに本人中央)