特色ある研究活動の成果
Research

人生の最期を自分らしく生きることを支える対話をどう進めるか?

人生の最期を自分らしく生きることを支える対話をどう進めるか?

①氏名、②フリガナ、③ローマ字表記、④所属部局名、⑤職名、⑥専門分野
①石橋みゆき,②イシバシミユキ,③Miyuki Ishibashi,④看護学研究科,⑤准教授,⑥地域看護学,高齢者看護学
①佐藤奈保,②サトウナホ,③Naho Sato,④看護学研究科,⑤准教授,⑥家族看護学,小児看護学
①池崎澄江,②イケザキスミエ,③Sumie Ikezaki,④看護学研究科,⑤准教授,⑥高齢者看護学,医療統計学
①渡邉美和,②ワタナベミワ,③Miwa Watanabe,④看護学研究科,⑤助教,⑥がん看護学
①梅澤猛,②ウメザワタケシ,③Takeshi Umezawa,④工学研究院,⑤助教,⑥知的情報処理,ヒューマンインタフェース

図1 エンドオブライフについて対話するプロセス
 自分にとって最善の生や自らの命の終わりについて対話するには、自分自身との対話(内省)を通じて、"熟考の準備"から始まり、"熟考"、"吟味"した上で、家族や医療者等の他者と対話するに至ります。その後、他者との対話で考えたことや感じたことを振り返り、再度、熟考に向かうプロセスをたどります。

増島 麻里子准教授

増島 麻里子

Masujima Mariko

千葉大学大学院看護学研究科准教授

専門分野:がん看護学
東京都出身。千葉大学看護学部卒業後、国立がん研究センター中央病院で看護師として勤務。2008年に千葉大学大学院看護学研究科にて博士(看護学)取得。2009年より現職。2014年10月文部科学省科学研究費補助金審査委員表彰。これまで取り組んだ研究課題は、「慢性疾患高齢患者の終生期の充実に向けた市民・医療をつなぐ情報共有システムの構築」、「乳がん患者のサポートグループの効果を高めるプログラム構成と有効性に関する研究」、「がん患者のリンパ浮腫を予防・軽減するための長期的な看護援助に関する研究」など。

どのような研究内容か?

 私たちは、健康な時には、当然のこととして日々の生活を過ごしています。しかし、病気により徐々に死に向かう過程では、痛みなどの苦痛が生じたり、食べることやトイレに行くのも大変になるなど、様々な生活行動が難しくなってきます。死に向かう限られた時間を自分らしくどう生きたいかという意向は、本人にしかわかりません。当事者が望むことや大切にしたいことが尊重され、いかにその人らしく過ごせるかは、家族や医療者を含む周囲の人が当事者の真の意向を把握し、実現に向けて繰り返し話し合うことが重要になります。
 当事者の意向を明らかにする対話には、当事者が自分自身の心の内と対峙する対話(内省)と、当事者が家族や医療者等の他者と話すことによる対話、の2つの側面があります(図1:エンドオブライフについて対話するプロセス)。自分がどう生きたいかという意向は、1回の対話で明らかになるものではなく、心身状態によっても変化し、考えたくない時期や理由もあります。そこで、私たちは、プロセスを追って思考を深められるような終生期対話支援ツールを作成しました(図2:ツールを活用している様子)。ツールの形態は、思考過程を継続的に記録できるようにパソコンやタブレット端末で活用できるICT(Information and Communication Technology)版や冊子版であり、好みに応じて使い分けが可能です。そして、終生期対話支援ツール活用に関わる予備調査を、40~80歳代の高齢者やその家族など計20名に行いました。

何の役に立つ研究なのか?

 厚生労働省の"終末期に関する国民の意識調査"によると、20歳以上の日本国民のうち約60%が、家族と人生の最終段階に関する医療について全く話し合ったことがない状況にあります。しかし、終末期医療の現場では、当事者や家族、医療者が、まだ死について話し合う時期ではないと考えるうちに心身状態が悪化し、当事者が受けたい/受けたくない医療を意思決定したり、療養場所の意向や大切にしたいことを伝えられない状況になることもあります。日常的な健康増進の一環として、当事者が健康な時から少しずつ終生期の生き方について自分自身で考えたり、周囲の人との対話を重ねることは、最期まで自分らしく生きることの実現可能性を高め、そばに寄り添う者の悲嘆を緩和する意味があります。

今後の計画は?

 看護職者を中心とする医療者や家族が、終生期対話支援ツールを活用しながら当事者と対話するための具体的な方法、工夫、時期などを明示したプログラムを考案する予定です。そして、検証研究の第一段階として、高齢者やその家族計50名を対象にプログラムを長期展開し、有用性や今後への示唆を検討していきます。

関連ウェブサイトへのリンクURL

 この研究は、千葉大学グローバルプロミネント研究基幹次世代研究インキュベーターとして採択された研究課題「超高齢社会における市民-専門職連携型エンドオブライフケア教育研究拠点」の一部です。


http://www.chiba-eolc.jp/study/study_2.html

成果を客観的に示す論文や新聞等での掲載の紹介

 支援ツールの作成過程では、終生期に関する自分自身や他者との対話について市民への学習会を行うとともに、ツール利用者となる皆様から意見や要望を伺いました。その様子は、東海新報新聞(2016年4月)に掲載されました。また、研究成果は、The 11th International Conference Innovative Nursing Care & Technology (2016年11月)で発表し、Award of the Excellent Posterを受賞しました(図3:発表ポスター)。

この研究の「強み」は?

 千葉大学が総合大学である強みを活かして、がん看護や家族看護など幅広い専門領域にわたる複数の看護学研究者に加え、工学、医学、薬学、法哲学、園芸学など他学問領域の研究者を含む学際的な研究組織を編成し、多角的な視点で研究を遂行しています。

学生や若手研究者へのメッセージ

 終生期に関する対話は気軽にできるものではありませんが、当大学で様々な学部の学生に講義をすると、学生は自身の両親や祖父母らを思い浮かべながら関心をもって学びを深めています。本研究のテーマは、医療系の専門家だけではなく、多様な学問領域の研究者や市民の方々と協働する必要があると考えています。

図2 終生期対話支援ツールを実際に活用している様子
ICT版のツールは、インターネットを経由し、パソコンやタブレット端末から接続します。日々感じたことや、もし自分が終末期になった時に希望することやその理由等を記録した内容は、パソコンなどで閲覧したり、印刷して冊子として用いることも可能です。

図3
The 11th International Conference Innovative Nursing Care & Technologyでの発表ポスター(一部省略)