特色ある研究活動の成果
Research

安全な医薬品を開発するための革新的アイデア!

安全な医薬品を開発するための革新的アイデア!

研究代表者:伊藤 晃成
共同研究者:
①氏名、②フリガナ、③ローマ字表記、④所属部局名、⑤職名、⑥専門分野
①薄田 健史、②ススキダ タケシ、③Susukida Takeshi、④大学院医学薬学府、⑤4年博士課程大学院生(日本学術振興会 特別研究員DC2)、⑥薬物動態学・薬物毒性学
①宋 彬彬、②ソウ ビンビン、③Song Binin、④大学院医学薬学府、⑤後期3年博士課程大学院生、⑥薬物動態学・薬物毒性学
①青木 重樹、②アオキ シゲキ、③Aoki Shigeki、④大学院薬学研究院、⑤テニュアトラック助教、⑥薬物毒性学・分子細胞生物学

図1 種差や個人差の大きい副作用は前臨床試験・臨床試験では見いだすことが困難である。そのため、市販後に多様な患者に広く使われて初めて発覚することが多い。要因の一つとして、個人差の特に大きいHLA遺伝子の関与が考えられている。

伊藤 晃成

伊藤 晃成

Ito Kousei

大学院薬学研究院教授

専門分野:薬物動態学・薬物毒性学

平成12年3月 東京大学大学院薬学系研究科 博士課程修了
平成12年4月~17年3月 千葉大学薬学部生物薬剤学研究室・助手
平成17年4月~平成24年12月 東京大学医学部附属病院薬剤部・助教授(准教授)
平成25年1月~ 現職

どのような研究内容か?

 薬の副作用の個人差は、体質 (遺伝子) と生活習慣 (環境) に関連することが知られています。それらの副作用の中には死亡に繋がる重篤なものもあり、新薬の開発段階でリスクを見極めることが重要です。しかし、現在の動物試験や臨床試験では、種差、個人差に由来する副作用はなかなか発見できず、市販後に広く使われてから発覚することが問題となっています(図1)。副作用の個人差には自己と他人を識別するヒト白血球抗原 (HLA;注) の遺伝子多型が一端を担うことが分かってきましたが、これまで適切な動物モデルが無く、HLA遺伝子型の違いによる副作用発症のメカニズムは不明のままでした。そこで、当研究室ではこの問題を解決するために、特定のHLA型を遺伝子導入したモデルマウスを独自に作製し、ヒトで起こる副作用を動物で再現させ、さらには「副作用発症の個人差」の原因解明を目指して研究しています。
 最新の成果として、エイズ治療薬であるアバカビルが遺伝子型HLA-B*57:01を持つヒトに起こる副作用 (皮膚での過敏症) をモデルマウスで再現することに成功しました(図2)。また、このマウスでは、アバカビルを投与しただけでは目立った副作用は起こりませんが、驚いたことに、ウイルス感染を模倣する薬品と併用すると肝障害を発症することも明らかとなりました。一般に、副作用発症タイミングには個人差が大きく、安全に長期服用している薬でも、ある日突然副作用を経験することがあります。今回見出した現象は、HLA遺伝子多型という生まれつきのリスク要因に、ウイルス感染という外的要因が重なることで副作用発症に至ったと解釈できます。このマウスでは、アバカビル投与をさらに続けても肝障害が悪化することはなく、薬物に対する過剰な免疫反応を抑制するシステム、いわゆる免疫寛容系が肝臓で活性化していることも併せて分かりました。
 このように、我々が作製したマウスには副作用発症や重症化の個人差と関連する重要なヒントが潜んでいると考え、さらに詳細な研究を進めているところです。

注)HLA:human leukocyte antigen の略。「自己と非自己」を認識するための重要な分子で、膨大な種類の遺伝子多型を持つ組織適合性抗原の一つです。臓器移植の際は、HLA 型の適合が重要な問題となります。

何の役に立つ研究なのか?

 HLA-B*57:01遺伝子多型を持ったヒトでは、アバカビルによる過敏症は2人に1人しか起こらないことが知られています。そのため、発症には他に未知のリスク要因が必要と考えられるので、今回作製したモデルマウスは未知のリスク要因探索にも有用と期待しています。また、今回の手法は他のHLA遺伝子多型と薬物の組み合わせにも適用できるため、同様のマウスを作製することで、その副作用が動物で本当に再現できるのか、他にどんな要因が必要なのか、など詳細に調べることができます。

今後の計画は?

 HLAの関わる副作用を臨床試験前に予測できるようにすることが最終目標です。すなわち、動物を用いてヒトHLA多型が原因となる薬の副作用を評価できたことを一層発展させて、より簡便に試験管の中で再現する実験系が必要と私たちは考えています。そして、今回作製したモデル動物を丁寧に調べることで、より簡便な系を再構築するヒントが得られるのではないかと期待しています。

成果を客観的に示す論文や新聞等での掲載の紹介

(i) T. Susukida, S. Aoki, K. Kogo, S. Fujimori, B. Song, C. Liu, S. Sekine, and K. Ito. Evaluation of immune-mediated idiosyncratic drug toxicity using chimeric HLA transgenic mice. Archives of Toxicology, in press (2017). doi: 10.1007/s00204-017-2112-9.
(ii) B. Song, S. Aoki, C. Liu, T. Susukida, and K. Ito. An animal model of abacavir-induced HLA-mediated liver injury. Toxicological Sciences, in press (2018). doi: 10.1093/toxsci/kfy001/4793110

この研究の「強み」は?

 臨床検体を用いたゲノムワイド相関解析ではHLA遺伝子多型と薬物副作用の相関が得られますが、両者の直接的な因果関係や、発症に影響する非遺伝的要因の探索は困難でした。我々の開発したマウスではこれら問題を解決できるのが強みです。

研究への意気込みは?

 医薬品による副作用発現メカニズムは非常に複雑で、HLA以外にも考えるべき要因は無数にありそうです。研究を進めていく中で生体システムの巧妙さや奥深さに魅力を感じて脇道に逸れそうになることもしばしばありますが、安全な薬を開発するために何をするべきか?という目的だけは忘れずに、広い視野でいろいろチャレンジしていきたいと考えています。

学生や若手研究者へのメッセージ

 学生の特権は研究に100%自分の時間を使えることです。使えるうちに存分に特権を活用ください。

その他

 謝辞:本研究は主に、薄田健史、宋 彬彬、青木重樹の諸氏との共同研究により行われました。

図2 エイズ治療薬であるアバカビルは遺伝子型HLA-B*57:01を持つヒトで特に副作用 (皮膚での過敏症)が起こりやすい。通常のマウスではこの副作用を再現できないが、我々の開発したHLA-B*57:01遺伝子導入マウスでは類似の副作用を再現することができる。