特色ある研究活動の成果
Research

ニンニクの薬用成分の生産の鍵となる遺伝子の発見

ニンニクの薬用成分の生産の鍵となる遺伝子の発見

研究代表者吉本 尚子
共同研究者①齊藤 和季、②サイトウ カズキ、③Saito Kazuki、④大学院薬学研究院、⑤教授、⑥薬学(生薬学、遺伝子資源応用学)
※ ①氏名、②フリガナ、③ローマ字表記、④所属部局名、⑤職名、⑥専門分野

ニンニクの硫黄成分アリインの健康効果と、アリインの生産におけるAsFMO1の役割。ニンニク細胞内では、グルタチオンから合成したS-アリルシステインをAsFMO1が酸化してアリインに変換する。新鮮なニンニクでは、アリインは細胞内に貯蔵されている。調理などによってニンニク細胞が傷つくと、アリインは抗菌活性や発癌抑制作用、コレステロール低下作用などの薬理作用や健康促進作用を示す硫黄を含む化合物群に変換される。

吉本 尚子

Yoshimoto Naoko

千葉大学大学院薬学研究院助教

専門分野:薬学(生薬学、遺伝子資源応用学)

千葉大学薬学部卒業、千葉大学大学院医学薬学府後期3年博士課程修了。博士(薬学)。理化学研究所基礎科学特別研究員を経て、2007年より現職。平成27年度日本薬学会生薬天然物部会奨励研究賞受賞。植物における薬理成分や健康機能成分の生合成機構の解明と応用を専門とする。

どのような研究内容か?

私達の研究グループでは、ニンニクの薬理効果や健康機能作用の元となっている化合物であるアリインの生産の鍵をにぎる酵素の遺伝子を発見しました。アリインは硫黄原子を含む化合物であり、アリインやアリインから二次的に生じる化合物群は、抗菌活性や発癌抑制作用、コレステロール低下作用や免疫を高める作用など様々な薬理作用や健康促進作用を示します。その薬学的重要性にも関わらず、アリインの合成に関わる酵素や合成経路の詳細は長い間不明でした。
 私達は、アブラナ科植物において硫黄を含む成分の硫黄原子の酸化反応を触媒する酵素群の遺伝子配列情報とニンニクが属するネギ属植物の遺伝子配列情報との比較解析に基づき、ニンニクから硫黄原子酸化酵素の候補遺伝子としてAsFMO1を得ました。一般的に植物の化学成分を合成するための酸化反応はシトクロムP450と呼ばれる酸化酵素群が行う例が多く報告されていますが、ニンニクのAsFMO1蛋白質はフラビン含有モノオキシゲナーゼと呼ばれる別の比較的珍しいタイプの酸化酵素群に分類されました。AsFMO1蛋白質について酵素機能を解析した結果、AsFMO1蛋白質はアリイン合成の中間物質と考えられるS-アリルシステインの硫黄原子を酸化してアリインを生成することが判明しました。理論上、S-アリルシステインの硫黄原子を酸化させると、硫黄原子に結合している酸素原子の立体配置が異なる2種類の化合物が生じます。AsFMO1蛋白質によってS-アリルシステインから合成されたアリインは、生じ得る2種類の化合物のうち1種類のみであり、これはニンニク内に含まれるアリインと同じ立体構造をもっていました。これらの結果は、AsFMO1蛋白質がニンニクのアリイン合成の最終段階においてS-アリルシステインの硫黄原子の立体特異的な酸化反応を触媒しアリインの生成を行うことを示しています。さらにニンニク内におけるAsFMO1遺伝子の発現部位やアリインの貯蔵部位を解析した結果、AsFMO1はニンニクの様々な組織においてアリインの合成に関わる重要な酵素遺伝子であることが判明しました。
 本研究は千葉大学の戦略的重点研究強化プログラム「ファイトケミカル植物分子科学」の一環として行いました。また、本研究は国内の製薬会社1社および食品会社1社との共同研究として行ったものであり、産学連携研究の成功例といえます。

何の役に立つ研究なのか?

AsFMO1蛋白質が行う硫黄原子の酸化反応は、ニンニクが薬理作用や健康促進作用を発揮する化合物を生産するために欠かせない、極めて重要な酵素反応です。AsFMO1遺伝子の機能を応用することにより、有用な硫黄化合物を植物や微生物を用いて生産する技術の開発や、新規の薬効を示す硫黄化合物の創薬、また、薬用性が高いニンニクやその他のネギ属植物の効率的な品種改良が期待できます。

今後の計画は?

今後、AsFMO1遺伝子の機能を応用し、植物や微生物を用いた有用な硫黄化合物の生産系の開発や、新規の薬効を有する硫黄化合物の創薬、薬用性が高いニンニクやその他のネギ属植物の品種改良を行いたいと考えています。また、自然界にはネギ属以外にもアリインや類似物質を生産する薬用植物が存在しており、これらの植物におけるAsFMO1と同様の機能を持つ遺伝子について配列情報や性質をニンニクAsFMO1遺伝子と比較することで、植物の硫黄化合物の生産系がどのように進化したのかを明らかにしたいと考えています。

成果を客観的に示す論文や新聞等での掲載の紹介

本研究は、The Plant Journal誌の2015年9月号のFeatured Article(主要論文)に選ばれ、表紙を飾りました。また、国内報道機関(科学新聞、薬事日報、日経電子版、日経バイオテクONLINE、財経新聞、化学工業日報)によって報道されました。

アリインの推定生合成経路。私達のグループでは、脱グルタミル化酵素に引き続き、硫黄原子酸化酵素であるAsFMO1を発見した。

植物、酵母、ほ乳類のフラビン含有モノオキシゲナーゼの分子系統樹。ニンニクAsFMO1は、アブラナ科植物の硫黄原子酸化酵素群と分子系統学的に似ている。

AsFMO1蛋白質の酵素機能の解析。酵母を用いて作製したAsFMO1蛋白質が、S-アリルシステインから天然型アリインを合成することを明らかにした。

AsFMO1蛋白質のニンニク内での分布とアリイン合成に関わる部位の解析。AsFMO1がニンニク内の様々な部位でアリインの合成に関わることが示された。