研究
Research

ロボットと失語症の言語リハビリを! 〜言葉の思い出しも支援〜

ロボットと失語症の言語リハビリを! 〜言葉の思い出しも支援〜

絵カードを用いた失語症者向け呼称訓練ロボット ActVoice for Pepper

黒岩 眞吾教授

黒岩 眞吾

Kuroiwa Shingo

千葉大学大学院融合科学研究科教授

専門分野:音声情報処理、福祉情報工学

東京都台東区出身。1988年電気通信大学大学院修士課程を修了。1988年、国際電信電話株式会社(現KDDI)入社、上福岡研究所勤務。機械翻訳システム、音声認識システムの研究開発に従事。1997年に国際電話サービス向け音声認識システムを実用化(日本音響学会技術開発賞、社長表彰など)。2001年、徳島大学工学部知能情報工学科に助教授として着任。ATR音声言語コミュニケーション研究所客員研究員として音声翻訳システムの実用化に寄与。2007年より現職。音声認識、話者認識等の基礎的研究を行うとともに、福祉情報機器の研究開発・実用化を推進中。

どのような研究内容か?

脳梗塞などにより脳の言語野が損傷され、言葉が出てこなくなる・・・認知症と間違われやすいのですが、認知機能は失われていません。今ここがどこで、前にいる人が誰で、やりたいこともちゃんと分かっているのに言葉だけが出てこない、これが『失語症』の症状の一例です。国内に20万人〜50万人いると言われていますが、知名度が低く周囲からの理解が得られにくい現状があります。  以前は、脳梗塞から初めの数ヶ月間はリハビリにより言語の回復が見られるものの、それ以降は回復がほとんど見られなくなると言われてきました。しかし、元読売巨人軍の長嶋茂雄監督が脳梗塞により失語症になったにも関わらず、費用を惜しまず通常以上の頻度と期間のリハビリを不屈の精神で続けたことで言語機能を改善したことは皆さんもご存知かと思います。  本研究では、誰もがそんなリハビリに挑戦できる環境を、音声認識技術を活用してタブレットやロボットのアプリとして実現しています。さらに、出てこない言葉を思い出す手助けをしてくれるシステムや、わかりにくい長く複雑な文を失語症者にもわかりやすく要約するシステムの研究開発も行っています。

何の役に立つ研究なのか?

現在、絵カードを用いた呼称訓練アプリ ActVoiceSmart と、呼称訓練ロボットActVoice for Pepperが、千葉県木更津市の君津中央病院で臨床試験中です。各システムは言語聴覚士のように必要に応じてヒントを出したり、発声者の音声を認識して評価する機能が備わっています。自宅でも簡単に言語リハビリを行えることから、リハビリ時間が大幅に増え呼称できる語数の増加率が高くなるとの効果が出始めています。また、ActVoiceSmartでは、身近なものの写真を撮って失語症者が本当に言えるようになりたい言葉を訓練に利用できる点が利用者に好評でした。また、写真をクラウドにアップすることで他の失語症者と写真カードを交換する機能を持たせたことで、コミュニティーの活性化にも寄与しています。

今後の計画は?

2015年に千葉大学の卒業生が取締役(CTO)を務める失語症訓練・支援ロボットの研究開発を行うベンチャー企業を設立しました。また、2016年にはタブレット版の絵カードを用いた呼称訓練システムActVoiceSmartを千葉県内の中小企業に技術移転し、秋には商用版がリリースされる予定です。大学では人工知能や音声情報処理・画像情報処理を用いた思い出しを支援するスマートフォンやロボットの研究を続けています。失語症には様々な症状があり、多くの失語症の方々との出会いが、人間の音声言語理解及び生成機能の謎を解く基礎的研究にもつながっています。そして、それらの基礎的研究に基づき、より効果的な訓練方法を提案できると考えています。

学生や若手研究者へのメッセージ

今そこにあなたの技術や能力を必要としている人がいる、でもそれって私の仕事とは違う・・・・そんな時、皆さんはどうするでしょうか? 閉じ込め症候群の人のために眼球運動だけで絵を描けるeyeWriteを開発したMick EbelingのTED-Talkでの結びの言葉、If not now, then when? If not me, then who? この言葉に出会った時から、私の答えは変わりました。そこに困っている人たちがいる。彼らを援助できる技術があり、それをできる自分がいる。新規性がない、論文にならない・・・そんなことはやらない理由にはならないと。福祉情報工学に関わることで、皆さんが身につけた情報処理技術が、誰かのために何かができる凄い力であることを実感して欲しいと思います。

絵カード・写真カードを用いた言語訓練・支援ネットワーク ActVoiceNet