特色ある研究活動の成果
Research

地上衛星複合観測網による巨大地震・津波の準備過程の監視と予測

地上衛星複合観測網による巨大地震・津波の準備過程の監視と予測

図1 衛星・地上マルチセンサネットワークによるリアルタイム巨大地震津波監視予測観測システムの概念図

服部 克巳教授

服部 克巳

Hattori katsumi

大学院理学研究院地球科学部門教授

専門分野:地球物理学、地球電磁気学

名古屋市出身。1992年に名古屋大学大学院工学研究科博士課程修了。博士(工学)の学位取得。
1992年 富山県立大学工学部助手
1995年 国立群馬工業高等専門学校電子情報工学科講師
1997年 理化学研究所 地震国際フロンティア研究 研究員
2001年 千葉大学海洋バイオシステム研究センター助教授
2006年 千葉大学理学部助教授に配置換え
2007年 千葉大学大学院理学研究科准教授
2009年 千葉大学大学院理学研究科教授
現在に至る。

どのような研究内容か?

 地震・火山噴火、地すべりなどの地盤災害の短期予測はその重要性にもかかわらずまだ達成されていません。例えば地震に関しては、地震波のP波とS波の速度差を利用して、大きな揺れの到達時間を知らせる緊急地震速報が運用されています。しかし、ある程度離れた場所で発生した大地震に対しては効力がありますが、直下型地震では,P波とS波の到達時間差がほとんどなく、効果がありません。そこで私たちは、衛星と地上で観測された様々なパラメータのビッグデータを解析することによって、地震の準備過程に発生する現象(前兆現象)を精確に捉えて理解し、究極的なゴールとして、前兆現象を用いた大地震の短期予測技術の開発と短期予測の実用化を目指す研究を行っています。台風や豪雨等の気象災害に対するレーダー情報や進路予想のように、巨大地震イベントに関する情報を事前に把握できれば、それに対応する準備や心構えもできます。つまり、マグニチュード7以上の巨大地震の1週間前、3日前、1日前、数時間前、1時間前、地震波到着直前、津波到着20分前の確度の高い地震・津波情報があれば、事前準備や被害軽減の行動により人命や経済的損失を劇的に抑制できると考えられます。
 図1は本研究の概念図で、地上や衛星に搭載されたセンサによって、海溝部や内陸で発生する巨大地震の準備段階で発生する前兆的な異常変動を検知し、地震や被害を与える津波の監視や予測の可能性について研究しています。図2はマルチセンサによるリアルタイム地震津波監視・予測システム構成例で、観測パラメータ(ULF電磁場、電離層電子数、衛星温度異常、地表変位、地震活動度、ラドン濃度等)が示してあります。これらの観測データに基づいて監視・予測を行いますが、観測項目は固定せず、研究の進展に応じて、追加や削除が可能なシステムとなっています。システムへの追加は地震活動との統計的有意性および前兆性の確認が必須で、現在はこの作業を進めています(図3と図4はそれぞれULF帯の磁場変動および電離層電子数の異常変動と地震との関係を調査した結果です)。台湾、米国、中国、イタリア、インドネシア等国内外の機関と連携して研究を展開しています。地すべりや火山活動についても同様な研究を行っています。

何の役に立つ研究なのか?

 大きく2つあります。1つは地震や火山活動、地すべりの直前の物理的な過程や発生機構が解明されるという純粋な科学的な観点です。もう1つは、その成果(科学)の社会への還元という観点です。
 地震・火山・地すべり等による甚大な災害は、何千人もの命を奪い、大きな経済的損失を引き起こします。2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震では地震動、津波、原発事故等の複合災害として、インフラ・公衆衛生問題、株式市場の一時的な混乱等などの広範な問題を引き起こしました。このことは地震災害の軽減には多様な学際的な取り組みが必要であることを示しています。なかでも、その予測(早期発見)が必要不可欠です。実際に国民が近い将来に実現してほしい科学技術の中で、地震予知は常に上位にあります。予測・速報情報の精度が高く、かつ迅速であれば、想定される人的・物的被害は軽減されます。例えば、2007年に実用化された緊急地震速報では、精度・リードタイムが十分であれば、半導体工場での想定被害数百億円が回避できることが実証されています。したがって、緊急地震速報に加えて、精度のよい地震予測情報や津波情報が活用できれば経済的損失はさらに軽減できると期待されます。首都圏直下型地震や東南海地震(津波)では、数万人の犠牲者が想定されていますが、信頼度の高い情報(緊急地震速報では数秒程度、予測情報では数日前からの早期警報)による避難、防災行動が期待されます。また、データや情報を社会インフラシステムへの組込むことによって、原子力発電所や石油コンビナートの防災システム、自動運転(道路)制御システム、港湾・物流システム、工事管理システム等の高機能化・高度化を図り、生命や経済的損失を軽減することも期待されます。さらには、対象者毎に必要な情報を抽出し、適切なBCP/事前BCP立案等のコンサルティングやアドバイスを行うことにより、人命・資産・製造工場などの安全確保、復旧時間の短縮が、全国規模で図られ、ひとりひとりに届く危機対応ナビゲータとなることが期待されます。

今後の計画は?

 地震の短期予測に関しては否定的な考え方が主流となっています。従来の力学的な研究方法では明瞭な前兆現象は捉えられていないことに基づいています。私たちの方法では、統計的に有意な前兆現象が捉えられており、この研究をさらに進展させたいと考えています。国内外の研究者と協働して、衛星・地上マルチセンサネットワークによるリアルタイム巨大地震・津波監視予測システムを充実させ、その高精度化を図ります。特に台湾が電離層を観測する衛星群(Formosat7/Cosmic2)を、中国が地震前兆現象観測することに特化した衛星(CSES-1)を2018年以降に打ち上げる予定で、これらのデータを同化させ、研究を深化させます。図5のように地上観測点を増加・充実させることも必要不可欠です。また、地震・津波、地すべりなど予測情報が活用されるには、どのような情報が必要で、どのように使用するかを幅広い専門家や企業、個人の参加のもと検討する必要があります。例えば、津波では、地震予測情報・緊急地震速報・津波予測情報を利用し、津波時だけ自律動作する防潮堤システム(smart active防潮堤)を検討・開発することを計画しています。

成果を客観的に示す論文や新聞等での掲載の紹介

1.Han, P., Hattori, K., Zhuang, J., Chen, C-H., Liu, J-Y., and Yoshida, S., Evaluation of ULF seismo-magnetic phenomena in Kakioka, Japan by using Molchan's error diagram, Geophysical Journal International, vol.208, Issue 1, pp.482-490, 2017. (doi: 10.1093/gji/ggw404)
2.廣岡伸治, 市川卓, 服部克巳, 韓鵬, 吉野千恵, 劉正彦, 2011年東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)に先行する電離圏異常の時空間分布, 電気学会論文誌A(基礎・材料・共通部門誌), vol.136, no.5, pp.265-271, 2016. (doi: 10.1541/ieejfms.136.265)
3.Peng Han, Katsumi Hattori, Maiko Hirokawa, Jiancang Zhuang, Chieh-Hung Chen, Febty Febriani, Hiroki Yamaguchi, Chie Yoshino, Jann-Yenq Liu, and Shuji Yoshida, Statistical analysis of ULF seismo-magnetic phenomena at Kakioka, Japan, during 2001-2010, J Geophys. Res., SPA, 119, 4998-5011, 2014. (doi:10.1002/2014JA019789)
4.Hattori, K., Han, P., Yoshino, C., Febriani, F., Yamaguchi, H., Chen, C.-H., Investigation of ULF Seismo-Magnetic Phenomena in Kanto, Japan During 2000-2010: Case Studies and Statistical Studies, Surveys in Geophysics, 34, 293-316, 2013. (doi:10.1007/s10712-012-9215-x)
5.Hirooka, S., Hattori, K., and Takeda, T., Numerical Validations of Neural-Network-based Ionospheric Tomography for Disturbed Ionospheric Conditions and Sparse Data, Radio Sciences, 46, RS0F05, 2011. (doi:10.1029/2011RS004760)
6.Kon, S., Nishihashi, M., Hattori, K., Ionospheric anomalies possibly associated with M ≥ 6.0 earthquakes in the Japan area during 1998-2010: Case studies and statistical study, Journal of Asian Earth Sciences, 41, 410-420, 2011. (doi:10.1016/j.jseaes.2010.10.005)
マスメディア
2012.6.9 NHKスペシャル MEGAQUAKE2
2012.7.29 NHK サイエンズZERO 地震予知/上空に現れた謎の異変
2016.5. BSフジ 革新のイズム など

この研究の「強み」は?

 本研究では地震・火山・地すべりの準備過程を従来の力学的パラメータではなく、電磁気学的なパラメータでも見てみよう、また地上だけではなく空中からも見てみようというユニークな取り組みをしています。図5のように独自の観測を15年以上にわたって継続し、観測データの詳細な解析(図3や図4のような統計解析や信号弁別など)ができることも、本研究室が国内外の他機関より優位な点です(特に図4の電離圏トモグラフィーによる擾乱している電離圏の再構成は、現在のところ私たちのグループしかできない技術です)。

研究への意気込みは?

 地震や火山、地すべり等の地盤災害の防災・減災を実現し、安心安全な社会をつくりたいと鋭意取り組んでいます。

学生や若手研究者へのメッセージ

 研究とは何かしら新しいことや未知なことへ挑戦することだと思っています。研究は失敗の連続です。荒野に例える研究者もいます。失敗の中から"灯り"が見えてきます。情熱(Passion)をもって、実行(Practice)し、あきらめない(Patience)で取り組むことが大事だと考えています。挑戦する心を持ち続けましょう。

図2 巨大地震・津波の監視予測システムの構成例

図3 ULF磁場の異常変動と地震との関係
(a)は磁場観測の例である。気象庁柿岡観測所(KAK)の磁場変動と2000-2010年までの地震との相関を調査したところ(b)、ある規模以上の地震の5-15日前に磁場異常が有意に出現し、地震の規模や震源距離依存性があることもわかった(c)。また前兆性を調査したところ、有意な前兆性が確認された(d)(e)。

図4 電離圏電子数の異常変動と地震との関係
(a)はGPS衛星による電離圏電子数観測の概念図である。本州上空の電離圏電子数の変動と2000-2010年までの地震との相関を調査したところ(b)、M6以上の地震の1-5日前に10時間以上電子数が2σ以上増加する異常が有意に出現し(c)、地震の規模や震源距離依存性があることもわかった。また前兆性を調査したところ、有意な前兆性が確認された(d)。2011年の東北地震(M9)についても同様な変動が確認され、その3次元電子密度分布を調査したところ、震央上空約2-300kmの電子密度が減少し、その周囲や上空では増加していることがわかった(e)。これらの変動は、水平東向きの電場が付加的にかかることによって説明可能である。

図5 既存観測点と新規複合観測点候補地マップ