特色ある研究活動の成果
Research

細胞内不良膜タンパク質のゴミ掃除は神経疾患を防ぐ

細胞内不良膜タンパク質のゴミ掃除は神経疾患を防ぐ

板倉 英祐助教

板倉 英祐

Itakura Eisuke

理学研究院生物学コース助教

専門分野:細胞生物学

2009年埼玉大学理工学研究科博士課程修了(井上金治研究室)、東京医科歯科大学大学院にて研究員として勤務(水島昇研究室)、2012年よりイギリスに留学しMRC laboratory of molecular biologyにて研究員として勤務(Manu Hegde lab)、2015年より現千葉大学大学院にて助教としてタンパク質品質管理経路の研究に励む。

どのような研究内容か?

 タンパク質は遺伝子情報に基づいて合成され、生体内(細胞内)で恒常性を保つために様々なはたらきをしています。しかし一度合成されたからといって、そのタンパク質が永遠にはたらくわけではありません。どんなタンパク質でもいつかは分解されます。タンパク質の平均寿命は3日ほどしかありません。重要なことに、タンパク質はストレスを受け不良化してしまう場合があります。ミスフォールディング・ミス局在・酸化・翻訳エラーなどを受けた不良タンパク質を取り除かなければ、他のタンパク質と凝集体形成を引き起こし、様々な疾患の原因となります。そのため細胞内では不良タンパク質を認識し消化酵素を含むリソソームへ輸送することで分解除去するオートファジーというシステムや、不良タンパク質をユビキチン化してプロテアソームへ運び分解するシステムがタンパク質品質管理システムとして重要な役割を担っています。
 我々はオートファジーやプロテアソームというタンパク質分解システムがどのようにして正常なタンパク質から不良タンパク質を識別して分解しているのか研究をしています。様々な原因により生じる不良タンパク質は多様な種類があり、また細胞内の異なる場所に存在するため、それに合わせた様々なタンパク質品質管理機構がまだまだ存在すると考えられます。
 最近の研究から、膜タンパク質が細胞膜ではなく細胞質に放出され不良膜タンパク質になってしまった場合にもタンパク質品質管理システムが重要な役割をもっていることを発見しました。特に細胞内でエネルギーを産生する器官であるミトコンドリアがストレスを受けると、ミトコンドリアへ輸送されるはずの膜タンパク質が不良化してしまいます。その不良膜タンパク質が凝集体形成の原因にならないように、UBQLNタンパク質が危険な膜タンパク質を保護して、プロテアソームで分解する経路を見つけました。実際にUBQLNを欠損した細胞ではミトコンドリアの膜タンパク質が凝集体を形成してしまいます(図1)。UBQLNは特にミトコンドリアの膜タンパク質に特異性が高いことから、ミトコンドリアの恒常性を維持するためにもUBQLNは重要であると考えられます(図2)。

何の役に立つ研究なのか?

 不良タンパク質が生体内に蓄積すると様々な細胞の機能を阻害してしまいます。実際にアルツハイマー、パーキンソン病、プリオン病、筋萎縮性側索硬化症などの神経疾患を呈したヒトの神経細胞内には不良タンパク質の蓄積が観察されます。したがって不良タンパク質がタンパク質品質管理システムによってどのように認識され分解経路へ運ばれるのか、そのメカニズムを解き明かすことができれば、これらの疾患の治療や予防に役立ちます。
 不良膜タンパク質の品質管理システムを担うUBQLN遺伝子は筋萎縮性側索硬化症の原因遺伝子の一つとして報告されていることから、不良膜タンパク質の蓄積と筋萎縮性側索硬化症の関連が注目されています。

今後の計画は?

 新しいタンパク質品質管理システムを同定するための研究を進め、不良タンパク質がどのようにして正常タンパク質から識別されているのかを解明します。例えば、分泌顆粒内のタンパク質ホルモンや細胞膜タンパク質などこれまで着目されていなかった不良タンパク質について調べることで、新しいタンパク質品質管理システムや関連する疾患などが明らかになると期待しています。
 さらにタンパク質品質管理システムを応用することで、細胞内で分解されずに蓄積している不要産物を分解する新しいシステムの構築も目指します。

関連ウェブサイトへのリンクURL

http://life.s.chiba-u.jp/matsuura/HP/matsuura.html

成果を客観的に示す論文や新聞等での掲載の紹介

Takayama K, Matsuura A, Itakura E
Dissection of ubiquitinated protein degradation by basal autophagy
FEBS Lett. 2017 May;591(9):1199-1211
Itakura E, Zavodszky E, Shao S, Wohlever ML, Keenan RJ, and Hegde RS
Ubiquilins chaperone and triage mitochondrial membrane proteins for degradation
Molecular Cell. 2016 Jul 7;63(1):21-33

研究への意気込みは?

 細胞内を綺麗にするために掃除を行うタンパク質品質管理システムは、生体内で様々な役割をもっていることが明らかとなってきました。これまでの研究結果が評価され平成29年度「文部科学大臣表彰 若手科学者賞受賞」を受賞できました。さらなる新しい品質管理システムを解き明かし、利用することで、体の中の健康を増進できるような研究を推進していきたいです。

学生や若手研究者へのメッセージ

 世界で誰も知らないことを発見する研究は、この世で一番好奇心を満たせる方法です。世の中の現象に不思議を感じるヒトは、是非研究者を目指してみてください。

図1.野生型の細胞はミトコンドリアシグナルを失ったミトコンドリア膜タンパク質(GFP(緑色蛍光タンパク質)タグ付き)を速やかに分解できるが、UBQLNを欠損したノックアウト細胞ではGFP-ミトコンドリア膜タンパク質は凝集体を形成してしまう。一方でただのRFP(赤色蛍光タンパク質)は細胞質に残っている。

図2.正常な状態では、膜タンパク質はミトコンドリアに輸送される。しかしミトコンドリアストレス時には、ミトコンドリアに膜タンパク質を輸送できなくなる。そのためミトコンドリアに輸送できなくなった細胞質の膜タンパク質を放置してしまうと、凝集体を形成し、細胞に悪影響を及ぼしてします。UBQLNタンパク質はそのような不良ミトコンドリアが凝集体を形成する前に見つけ、分解へと輸送する膜タンパク質品質管理システムとしてはたらしていることを発見した。