研究
Research

法政経学部 福祉政策講座 広井研究室

哲学的な視点から福祉や地域に関する提言を発信

法政経学部 福祉政策講座 広井研究室

世の中の問題は、テーマが個別に存在するのではなく、個々のテーマが複雑に関連し合うことで起こっていると説く広井良典教授。社会保障制度から地域コミュニティまで、多種多様な研究を行っている広井教授にお話を伺いました。

広井良典

ひろい よしのり

千葉大学法政経学部法政経学科教授。(2015年3月時点)

東京大学教養学部、同大学院修士課程修了。厚生省(現・厚生労働省)勤務を経て1996年より千葉大学に着任、2003年より現職。専攻分野は公共政策。著書に『定常型社会』(岩波新書)など多数。

先生が取り組んでおられる研究について教えてください。

私の研究テーマは、大きく分けると公共政策と科学哲学です。社会にはさまざまな問題がありますが、私は、一つ一つのテーマが独立しているのではなく、相互に関連があったり、複数の問題が複雑に絡み合ったりしているという考えで研究を行っています。たとえば、私が取り組んでいるテーマの一つに少子高齢化がありますが、深く考えていけばいくほど、医療や社会保障、若年層への支援、地域コミュニティのあり方など、多種多様なテーマが関係していることが見えてきます。また、人間と社会との関わりという面では、制度的な問題だけでなく、本当の意味での豊かさや社会の幸福、死生観といった哲学的な問題にも向き合う必要があります。

公共福祉を考える上で哲学的な面に踏み込むという考え方をされるようになったのは、何かきっかけや理由があるのでしょうか。

「人は何のために生きるのか?」という哲学的なテーマには高校時代から関心がありました。大学は法学部に入学したのですが、自分がやりたいのはやはり哲学だという考えがあったため、3年次に教養学部に転籍して科学史・科学哲学を専攻し、大学院では学際的な研究を行う相関社会科学という分野に進みました。このときに身につけた哲学的な考え方、つまり、表層でなく本質や根本について思索するという志向が、現在の私の研究姿勢の基礎になっているのだと思います。千葉大学に赴任する前は、厚生省(現・厚生労働省)で社会保障に関連する業務に就いていた時期があるのですが、この時期に海外留学をする機会があり、そのときにやはり自分は研究職が向いていると実感しました。1996年に千葉大学からの誘いで研究の道を選ぶことになりましたが、こうした経験から、哲学的あるいは根源的なテーマと、現実に起こっている具体的・政策的な課題を結びつけて考えることが大切と思うようになりました。

先生にとって研究の醍醐味ややりがいはどのような点なのでしょう。

公共政策についての研究というのは、単に問題点を指摘するだけではなく、どうすればそれを克服できるのかを考え、提言していくことが重要です。私は、研究を通して自分なりに得られた考えを著書や論文といった形で世に出すようにしています。また、政府の審議会などに参加させていただくことがありますが、麻生政権時代に委員を務めた教育再生懇談会では、子育てや若者支援の強化を促す「人生前半の社会保障」という言葉を提唱し、最終報告に反映されました。こうした形で提言が採り入れられると、少しは社会の役に立っていることを実感できてやりがいを感じます。

最後に学生へのメッセージをお願いします。

私は今、「鎮守の森プロジェクト」という取り組みをしています。これは人間の本当の豊かさや幸福の拠りどころとして地域コミュニティが果たす役割を研究するというものですが、ここでもやはり豊かさや幸福といった哲学的なテーマが関連しているんですね。人は20歳頃に考えたテーマを一生考え続けると思います。私にとっては哲学的なことがそうでした。20歳頃というと、ちょうど学生の皆さんの年齢です。自分が興味を持てるテーマを見つけることが大学時代の一番の課題です。そうすることで自分が進むべき方向も見えてくると思います。

ゼミでは、学生が取り組みたいテーマについての発表を行う。最近は地域コミュニティに関心を持つ学生が多いとか千葉大学が推進する豊かな健康長寿社会と安全・安心な社会の実現を支える医療人の総合的育成の司令塔の役割を果たすのが未来医療教育研究機構。

ゼミで行われた鎮守の森セラピー(森林療法)の試み。森林インストラクターの指導のもと、学生たちが鎮守の森において気功や樹木に触れるなどの活動を行った(市川市・白幡天神社)

これまでに単著だけでも20冊ほどの著作を出版。「私にとって本を書くのは、広い意味での思想を表現するということです」と広井先生