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広報誌ちばだいプレス

千葉大学 大学院 融合理工学府 共生応用化学コース 分子集合体化学研究室
研究室訪問

千葉大学 大学院 融合理工学府 共生応用化学コース

分子集合体化学研究室

五輪構造の超分子ポリマーをはじめ
ユニークな形と機能を持った
様々なナノ材料の開発に成功

矢貝 史樹(やがい・しき)
千葉大学グローバルプロミネント研究基幹教授。立命館大学大学院理工学研究科で理学博士課程修了後、2002年に助手として千葉大学に赴任。2007年に助教、2010年に准教授を経て、2017年より教授。

研究室訪問

千葉大学 大学院 融合理工学府 共生応用化学コース

分子集合体化学研究室

五輪構造の超分子ポリマーをはじめ
ユニークな形と機能を持った
様々なナノ材料の開発に成功

千葉大学 大学院 融合理工学府 共生応用化学コース 分子集合体化学研究室

矢貝 史樹(やがい・しき)
千葉大学グローバルプロミネント研究基幹教授。立命館大学大学院理工学研究科で理学博士課程修了後、2002年に助手として千葉大学に赴任。2007年に助教、2010年に准教授を経て、2017年より教授。

分子集合体の応用研究から超分子ポリマーの基礎研究へとシフトチェンジし、新素材として期待される様々な超分子ポリマーの合成に成功している矢貝史樹教授。
研究内容や基礎研究の醍醐味などについて話を伺いました。

研究対象の超分子ポリマーについて
教えてください

超分子ポリマーは、非共有結合という弱い力で結びついた分子集合体です。分子レベルまで分解できたり、もとの状態に自己修復できたり、一定条件で自動的に構造を変化させたりできる性質があります。こうした構造面での特性は、従来のポリマーにはなかったもので、あらゆる分野に応用できる新しい機能性材料として、ここ20年ほどで注目を浴びています。

これまでの研究成果について
教えてください

もともと私の研究室では、超分子ポリマーに限らず、様々な分子集合体の応用研究を行っていました。分子の構造変化を利用し、2014年には刺激で色が変わる発光材料、2016年には水素結合による太陽電池といった成果を上げています。しかし、応用研究をするなかで、欲しい分子構造を得ることの難しさを感じていたため、もっと本質的な原理や仕組みを解明したいという気持ちが芽生え、現在では超分子ポリマーの基礎研究へとシフトチェンジしています。2018年ごろからは様々な構造の新しい超分子ポリマーの合成に成功していますが、その一例が、リング状に自己集合する分子集合体をつないでいく技術です。最初は1つのリングでしたが、原理がわかるにつれて複数のリングをつなげて合成できるようになり、2020年にはオリンピックのシンボルマークのような五輪の形にひとりでにつながるようになりました。さらにその幾何学構造を世界で初めて可視化することにも成功しました。このリングはバネのような柔軟性のある構造になっているので、柔らかい素材に応用できるのではないかと期待しています。

ナノ材料 画像

五輪構造のカテナンリング状の分子集合体をつなぐことで五輪構造の超分子ポリマー合成に成功。他にもらせん状など、様々な構造の超分子ポリマーの合成に成功している

ナノ材料 画像2

長く連なったポリカテナン20個の環構造が直線状に繋がっており、さらに8、19番目の環は三つの環と繋がっており、分岐構造になっている

nm=ナノメートル(1nm=0.0001mm)

基礎研究のやりがいは
なんでしょう

あらゆる分野に応用できる可能性があるという点が、基礎研究の最大の魅力だと思います。現在、私たちが使っている素材も、何十年も前に先人が研究したものを応用しているケースが少なくありません。自分が合成した超分子ポリマーが、新素材として社会のあらゆるところで役に立つというのは大きなやりがいだと感じます。ただ、基礎研究というのは、最初から特定の目的があるものではありません。研究で優れた成果を上げる秘訣は、自由な発想で楽しむことだと考えているので、まずは自分で設計した超分子ポリマーの合成に挑戦することが重要です。先ほどの五輪構造のように、分子は私たちの想像をはるかに超えた姿を見せてくれるので、そこから合成プロセスを解析したり、どのような機能があるかを分析したりして、応用につなげていくことができます。超分子ポリマーの応用範囲は無限大なので、どんな形で世の中の役に立ってくれるのかを想像するのも基礎研究の醍醐味です。

顕微鏡 画像

原子間力顕微鏡(AFM)原子の間に働く力を検出することでナノサイズの超分子ポリマーの構造を可視化できる原子間力顕微鏡(AFM)。五輪構造の画像もこの顕微鏡で撮影された

学生の皆さんへの
メッセージをお願いします

理系文系を問わず、研究をしているといろいろな能力が必要だということがわかってくると思います。研究のための思考力や調査力はもちろん、研究を進めるうえでは周囲とのコミュニケーションも必要ですし、得られた結果を人に正しく伝える能力も身に付けるべきです。そこまでやって初めて一つの研究を全うしたことになりますし、そうやって学んだプロセスは社会人として課題解決に取り組む際にも必ず役立ちます。大変さを楽しみながらいろいろなことに挑戦して、経験値を高めていってください。