自然界の限界を超えるエネルギー変換機能を持つATP合成酵素の開発に成功 ―細胞工学やバイオものづくりへの応用に期待―

2025年07月04日

研究・産学連携

 東京大学大学院工学系研究科の上野博史講師、野地博行教授らの研究グループは、千葉大学大学院理学研究院の村田武士教授、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の千田俊哉教授、安達成彦特任准教授(研究当時、現:筑波大学生存ダイナミクス研究センター 准教授)との共同研究により、生物の生命活動に必須なATP注1)を作る酵素「ATP合成酵素」注2)を人工的に改変し、これまで報告されている自然界に存在するどの酵素よりも高いエネルギー変換機能を持つATP合成酵素の開発に成功しました。この改変型ATP合成酵素は、ATP合成を駆動するプロトン駆動力注3)が極めて小さい環境でもATPを合成できることが確認されました。これは、通常1つしかない酵素内の「プロトンの通り道」を3つに増やすという新しい分子設計によって世界で初めて実現されたものです。
 本研究により、生体内でのエネルギー変換メカニズムに新たな視点がもたらされ、将来的には細胞工学やバイオものづくりへの応用展開も期待されます。

注1)ATP:生物のエネルギー源となる分子で、「エネルギー通貨」とも呼ばれます。筋肉の収縮、物質の合成、神経伝達など、あらゆる生命活動に必要なエネルギーを供給します。
注2)ATP合成酵素:細胞膜に埋め込まれている分子機械で、膜内外に形成されるプロトン駆動力を使ってATPを合成します。
注3)プロトン駆動力:水素イオン(H⁺)の濃度差や電位差によって生まれるエネルギーで、ATP合成酵素を回転させる原動力になります。

  • 図

    天然型ATP合成酵素の構造(a)と天然型・改変型Foモーターの模式図(b)