特色ある研究活動の成果
Research

都市養蜂による緑化の普及と環境デザイン

都市養蜂による緑化の普及と環境デザイン

研究代表者
永瀬 彩子
共同研究者
①氏名、②フリガナ、③ローマ字表記、④所属部局名、⑤職名、⑥専門分野
①三輪 正幸,②ミワ マサユキ,③Miwa Masayuki,④環境健康フィールド科学センター,⑤助教,⑥果樹園芸学、デザインシステム学
①上原 浩一,②ウエハラ コウイチ,③Uehara Koichi,④国際教養学部,⑤教授,⑥生態遺伝学、環境保全学、植物分子系統学
①渡邉 誠,②ワタナベ マコト,③Watanabe Makoto,④国際教養学部,⑤教授,⑥デザインマネージメント、デザインシステム、プロダクトデザイン

図1 西千葉キャンパスにおける養蜂の環境教育

永瀬 彩子准教授

永瀬 彩子

NAGASE AYAKO

国際教養学部准教授

専門分野:都市緑化、都市環境デザイン

2008年英国シェフィールド大学ランドスケープ学部PhD 取得。千葉大学園芸学部助教、千葉大学工学部助教、東京都市大学都市生活学部准教授を経て、2016年より現職。

どのような研究内容か?

 近年、東京、ニューヨーク、パリ、トロントなど世界中の都市で、ミツバチを飼育する都市養蜂が行なわれるようになりました。都市は郊外よりも蜜源となる植物が少ないと思われることも多いですが、都市はまとまった緑地が点在し、農薬の使用が少ないため、都市養蜂に適していると言われています。例えば、東京都心では、皇居や日比谷公園、千葉大学西千葉キャンパス周辺では、千葉公園などが挙げられます。都市養蜂では、参加者を招いて採蜜やミツバチの観察会、はちみつを用いた地産地消の商品開発、ミツバチの受粉が必要な農作物を植えるビーガーデンの設置など、子供から大人まで参加できる活動が行われています(図1)。
(1)ミツバチが訪れている植物を特定し、周囲の環境を理解する
 都市においては、多くの植物から花の蜜を集めることで、「百花蜜」とよばれるはちみつが生産されています。ミツバチが放花している植物を明らかにするため、これまで花粉の形やミツバチダンスを観察するといった研究が行われてきました。しかし、これらの手法は煩雑で、データに曖昧さを含むのが課題として挙げられます。一方、近年DNAの分析技術は飛躍的に進歩しており、商品のバーコードを読み取るように、特定の遺伝子領域を読み取り、その結果としてミツバチが訪れる植物を科学的に特定することができます。本研究では、西千葉キャンパス(図2)、柏の葉キャンパス、さらに、八重洲ブックセンター(鹿島建設)および藤屋(江東みつばちプロジェクト)にもご協力をいただき、花粉およびはちみつを採集し(図3、図4)、DNAを分析しました。その結果、都市のミツバチは多くの種類の園芸植物、街路樹、雑草に訪れていることがわかってきました。養蜂箱に置かれている周囲の緑地を調査し、その関係性を分析しています。
(2)養蜂箱をデザインする
 現在使用されている養蜂箱「ラングストロス式養蜂箱」は世界中で使用されています。しかし、生産を主な目的とした養蜂家を想定しているため、作業や生産の効率は良いものの、外見がスタイリッシュではないのに加え、女性にとっては重量が重く、扱いにくいと感じることがあります。一般の方が行う都市養蜂では、環境教育や楽しみを目的としているため、もっと適した養蜂箱があるのではないかと考えました。初めて養蜂を行う方でも作業が容易で、デザイン性に優れた養蜂箱の研究と開発を行っています。これにより、家庭、公共施設、企業など、さらなる都市養蜂の普及を目的としています。

何の役に立つ研究なのか?

 私は屋上緑化など都市緑化を推進するための緑化技術や緑化による環境改善効果などを研究しています。その中で、自然からどのような恵みを得て、私たちの生活が成り立っているのかを理解する大切さを実感するようになりました。ミツバチははちみつを提供するだけではなく、食卓にのぼる多くの野菜や果物の受粉に貢献しており、ミツバチがいなくなれば、生活は成り立たなくなります。しかし、気候変動や農薬の使用、ダニなどの問題によりミツバチの数が減少し、深刻な国際問題となっています。都市においては人間の活動が中心となり、生き物からの恩恵を感じることは難しいと思います。ミツバチは都市において自然と人とをつなぐシンボルとなり得るのです。都市養蜂を通じて、花があふれる街づくりを進め、多くの方に周囲の花に興味を持っていただき、生活と環境のつながりを感じられることが目標です。

今後の計画は?

 ミツバチの訪花の研究では、花粉を採集する地点を増やし、都市と郊外の比較、海外と日本における比較などさらに広げて実験を行います。また、デザイン分野では、養蜂を行う際に使用する道具のデザインを行う予定です。さらに、ミツバチや養蜂に関するイメージ調査、養蜂のイベントに参加することによる心理評価なども調査していきます。さらに、薬学分野では、はちみつと蜜源植物を照らし合わせることにより、薬に役立つ成分を調査する計画、人文科学分野では、ミツバチの視覚認識を調査する計画があります。本研究はまだ始まったばかりで、まだ多くの可能性を秘めていると思います。ミツバチやはちみつを通じて、様々な分野の研究者たちと共同研究を行うことがこの研究の大きな魅力であると考えています。

図2 西千葉キャンパスにおける養蜂の様子

図3 花粉採集

図4 採蜜