特色ある研究活動の成果
Research

高齢者うつ,地域差1.7倍 サポート授受が豊かだとうつ割合は低い

高齢者うつ,地域差1.7倍 サポート授受が豊かだとうつ割合は低い

研究代表者佐々木 由理
共同研究者 ①近藤 克則、②コンドウ カツノリ、③Kondo Katsunori、④予防医学センター、⑤教授、⑥社会疫学、医療と介護の政策科学、医療・福祉マネジメント
※ ①氏名、②フリガナ、③ローマ字表記、④所属部局名、⑤職名、⑥専門分野

JAGES(Japan Gerontological Evaluation Study,日本老年学的評価研究)プロジェクトは、健康長寿社会をめざした予防政策の科学的な基盤づくりを目的とし,全国の約30の市町村と共同し,10万人規模の高齢者を対象にした調査を行っています。千葉大学予防医学センターの近藤克則教授がプロジェクト代表を務め,全国の大学・国立研究所などの30人を超える研究者が、多面的な分析を進めており,文部科学省、厚生労働省、米国National Institute of Health(国立衛生研究所)を始めとする多数の研究助成を受けて進めています。

佐々木 由理特任助教

佐々木 由理

Sasaki Yuri

千葉大学予防医学センター特任助教

専門分野:国際保健学、公衆衛生学、社会疫学

津田塾大学学芸学部英文学科卒業.東京大学大学院医学系研究科国際保健学修士課程,博士課程修了(保健学).日本,カンボジア,インドネシア,ザンビアをフィールドにした母乳哺育やHIV感染予防・治療アドヒアランスの研究に従事.2012年より名古屋市立大学看護学部国際保健看護学感染疫学研究室研究員を経て,2014年度より現職。

どのような研究内容か?

全国29市町村の要介護認定を受けていない65歳以上127,041人を対象とした調査で,高齢者のうつ傾向・状態の割合(以下うつ割合)に差があるか,サポートの授受の豊かさにその差が関連しているかを調べました。サポートの授受は,心配事や愚痴を聞いてもらう人,聞いてあげる人がいるかどうか,その相手は誰かについての回答を得て,評価しました。
まず,うつ割合は,市町村間で21.5%から36.2%と1.7倍(14.7%ポイント)の差がありました。また,「心配事や愚痴を聞いてもらう人がいない」割合は2.3%から6.7%と3倍(4.4%ポイント) ,逆に「心配事や愚痴を聞いてあげる人がいない」割合は5.4%から9.5%と1.8倍(4.1%ポイント)の地域差がありました。今回の調査で,家族や親戚のみならず,近隣の人や友人とのサポート授受の豊かさも,うつ割合の低さと関連していることがわかりました。

何の役に立つ研究なのか?

高齢者のうつは自殺,要介護,認知症に関連することがわかってきていますが,本研究で,高齢者のうつの多い町,少ない町があることがわかりました。そして,サポート授受の豊かな町に住んでいることと高齢者のうつ割合の低さが関連しており,うつの少ない町を生み出せる可能性が見えてきました。高齢者の単独世帯の増加が見込まれる中,配偶者や血縁が近くにいなくても,近隣の人や友人との接触機会を増やす環境整備が,高齢者のうつ予防に役立つ可能性があります。

今後の計画は?

本研究は横断データ(1時点で収集したデータ)を分析した結果です。因果関係に迫るために縦断データを用いた検証を行います。また,高齢者のうつリスクに留まらず,一度うつとなった高齢者はうつから回復できるのか,どのような高齢者が回復できているのかに迫ります。 

成果を客観的に示す論文や新聞等での掲載の紹介

<論文発表>
佐々木由理,宮國康弘,谷友香子,長嶺由衣子,辻大士,斎藤民,垣本和宏,近藤克則.高齢者うつの地域診断指標としての社会的サポートの可能性 -2013年日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study:JAGES)より-. 老年精神医学雑誌 26(9),1019-1027, 2015(査読有).

<学会発表>
Yuri Sasaki, Yasuhiro Miyaguni, Yukako Tani, Yuiko Nagamine, Hiroyuki Hikichi, Tami Saito, Naoki Kondo, Kazuhiro Kakimoto, Katsunori Kondo, and the JAGES group. The geriatric depression scale (GDS-15) and interpersonal relationship with surroundings among older adults at the community level in Japan -Japan Gerontological Evaluation Study (JAGES)-. the Society of Epidemiologic Research 48th Annual Meeting, Denver, USA, 931-S/P P3 Mental Health,June,2015.

<メディア掲載>
1. 「ヘルスアップ」21(株式会社 法研)平成28年1号p.28
2. 週刊朝日(12月4日) 「退職後の友人の作り方」特集の一部
3. 毎日新聞 朝刊 (2016.1.8);くらしナビ連載企画「家族2016 弧をいきる」で紹介

その他

本研究は,研究活動スタート支援(No.26885014佐々木由理)および長寿科学研究者支援事業(No:J09KF00804佐々木由理)等の助成を受けてまとめました。