特色ある研究活動の成果
Research

ストレスフリーな都市の実現~人の意を酌むAI~逆強化学習~

ストレスフリーな都市の実現~人の意を酌むAI~逆強化学習~

荒井 幸代

Arai Sachiyo

大学院工学研究院 教授

専門分野:分散人工知能、都市知能化技術、人の意図推定、多目的逐次意思決定

慶應義塾大学理工学部卒業後、ソニー(株)を経て、1998年東京工業大学大学院総合理工学研究科知能科学専攻博士課程修了。アメリカCarnegie Mellon University Robotics Institute上級研究員、ドイツFraunhofer-Gesellschaft(国立情報学研)、京都大学大学院情報学研究科客員助教授を経て、2015年より現職、学術振興会専門研究員、IJCAI、AAAI、AAMASなど人工知能関連国際会議プログラム委員など。

どのような研究内容か?

 人工知能というと囲碁、将棋を思い浮かべるかもしれません。囲碁や将棋は、AI技術の進捗を把握しやすいのですが、ただ、勝敗の裏にどんな技術が潜んでいるのか、想像力を働かせ、ここから敷衍できる技術に思いを馳せて欲しいのです。1.相手の手のうちを知る→好みの推測、2.今どの手が有効かを考える→場の状況を読んで何をすべきかを判断する。今できる最もよい選択=打てる手は限られていますのでその中から、最良の一手を選ぶという人の生活における一連の過程が凝縮されています。
 さて、私はもともと、複数のロボットがスムーズに役割を分担しながら効率よく作業行う「協調作業の仕組み」を研究していました。
 ※複数の実行主体が存在する環境は、マルチエージェントシステムといいます。  グループワークなどをやったことのある方ならわかると思いますが、自分のやろうとしていることを他の人が先にやってしまったり、やって欲しいことをやってもらえなかったりといった経験があるでしょう? ロボットも同じです。一台では問題なく賢いロボットが、二台、三台になると効率よくなるどころか、衝突することが多くなります。
 「三人よれば文殊の知恵」どころか「姦しい」ことになるのが現実です。そこで、衝突に折り合いをつけ、適材適所の役割分担をロボット自身で決めて、実行する「知能」の実現を課題としてきました。
 重要なことは、複数のロボットを統制する上司(中央管理者)が不在であること、つまり、個々のロボットが自律的に負荷を分散し、それぞれの機能をシェアする仕組み、これを「自律分散システム」といいます。千葉大学に来る前までは、ロボット群を対象としてきましたが、現在は人が絡む問題として、交通、エネルギーマネジメント、防災(主に人災を減らす)を主な対象としています。具体的には以下のテーマを扱っています。(写真1~4 対象問題:交通流、エネルギー、リサイクル、人の流れ等)
■ 市街地を自動走行する車軍制御:他の車、人、自転車などの混合交通流の円滑化
■ 複数の交差点の信号制御:人、車の滞留の最小化
■ 避難誘導:過去の動線からの導線設計による人災最小化
■ 熟練者のスキル継承:暗黙知の形式化と転移(ある知識を他の問題に使えるように転移)
 上記の対象をマルチエージェントシステムとしてとらえ、個々の学習については、強化学習、逆強化学習、制御理論を、協調の仕組みについてはゲーム理論をベースにした応用や理論の改良を図っています。

何の役に立つ研究なのか?

 私はAIを「人間の知的な機能を理解する」ための研究と位置付けています。人の知能を探ろうとするあまり、知らず知らずに、人の挙動を観察するようになりました。自分の行動(特に子育て)を客観的に眺めては、その非合理性に落胆したり、一方で、災害時の人々の、今の計算機じゃできない!と思える「瞬時の判断力」「協調性」に驚愕したり、人間観察そのものが研究につながるところに究極の面白さがあります。  人の知的機能を明らかにすれば、機械が代替できる部分は機械にやらせ、人にしかできないことだけに専念してもらうための、究極の雑用代行、コンシェルジェとなるシステム構築論として貢献できるのではないかと思います。(実は雑用処理が一番難しいことを示すことになるかもしれませんが)

今後の計画は?

 ロボット群から群衆(ヒト)にシフトしていますが依然として、人と共存する自動車や信号機など機械側の協調を対象としています。しかし、機械側を人にフィットさせるためには、人が自分でも気づかない「嗜好、志向」を抽出する方法が必要だと考えています。今後はその方法論と、これに基づいた物の設計論の構築を計画しています。

関連ウェブサイトへのリンクURL

HP:http://nexus-lab.tu.chiba-u.ac.jp/
研究紹介記事(前編):https://hey-labo.com/labo/arai-chiba-u/blog/13
(後編)https://hey-labo.com/labo/arai-chiba-u/blog/14

成果を客観的に示す論文や新聞等での掲載の紹介

●日経xTECH(クロステック)
数式に頼ることなく、強化学習のエッセンスを学ぶ 第1回~4回
https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00913/00001
https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00913/00001
https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00913/00001
https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00913/00001

この研究の「強み」は?

 終わりがないこと。

研究への意気込みは?

 楽するための苦労はいとわない。

学生や若手研究者へのメッセージ

 自分探しの手段を模索しているなら、旅に出るよりこの研究分野にぜひ踏み込んで欲しい。マルチエージェントについても「自分は協調性がない」と思っている方は一緒にやりましょう。

その他

 博士号を取りたいと思ってもらうような魅力的な研究者になれたらと思います。

【写真1】交通

【写真2】エネルギー

【写真3】リサイクル

【写真4】人々

図1 渋滞の7割を占める自然渋滞の解消