特色ある研究活動の成果
Research

ロボット棟梁 - 伝統木造建築の自動化施工技術の開発 -

ロボット棟梁 - 伝統木造建築の自動化施工技術の開発 -

ロボット棟梁

平沢 岳人教授

平沢 岳人

Hirasawa Gakuhito

千葉大学大学院工学研究科教授

専門分野:建築構法、建築学におけるビジュアライゼーション

1988年 東京大学工学部建築学科卒業、1993年 博士(工学)、1996年 建設省建築研究所第四研究部研究員、同主任研究員、同研究主幹、フランスCSTB客員研究員、INRIA招聘研究員を経て2004年10月 千葉大学工学部助教授。2007年4月 千葉大学大学院工学研究科准教授、2016年4月より現職。

どのような研究内容か?

国宝、重要文化財として登録される伝統的な木造建築は年々増加しています。木造建築は定期的なメンテナンスが必要ですが、これらの担い手である棟梁(腕の良い大工のこと、宮大工と呼ばれることもあります)の人材育成は難しく、人口減少社会に向かいつつある現在、需要と供給のバランスのほころびもみえ始めています。私たちの貴重な財産である伝統木造建築の維持保全には21世紀にふさわしい新しい建築技術が求められています。
当研究室のロボット棟梁は、自動車工場など、我が国の産業界でも広く使われている多軸の腕型ロボットに伝統木造建築特有の複雑で繊細なディテールを加工できる刃物(ツール)を持たせて実現しています。大きな開発項目は、ロボットの動きを指示する制御プログラムと、ロボットに持たせる専用加工ツール群でした。いずれも研究室内で一から開発しました。

何の役に立つ研究なのか?

伝統的な木造建築の部材の加工をロボットに任せることが出来れば、宮大工はより重要な建物の総合的な構成に集中することができます。また、ロボット施工により、材料加工にかかるコストが軽減されるだけでなくメンテナンスに必要な期間を従来よりも短縮できます。コストと時間の軽減は、文化財保存のための限られた予算内での効率的な補修計画を可能にします。私たちの貴重な財産である文化財の状態をより多くより良く保つこともできるようになるわけです。
また、これまでにない新しい建築構法(建築の造り方)をロボット棟梁が実現する可能性もあります。伝統を守りながら建築のこれからの未来も同時に考えています。

今後の計画は?

現時点で採用しているロボットは比較的小型のものなので、実際の建物の1/5スケールのものしか加工できません。制御するコンピュータ・システムは実物大の建築を前提に構築してあるので、より大型のロボットに置き換えることで、実物大での加工が可能になります。
 今後は、実物大での加工が可能な研究開発環境を整備すると同時に、実際の修繕現場での適用実験を計画しています。

成果を客観的に示す論文や新聞等での掲載の紹介

1)多関節ロボットによる木材加工におけるツールパス生成に関する研究、日本建築学会技術報告集、第22巻、第51号、pp.813-816、2016.6
2) 多関節ロボットによる伝統木造構法の部品加工に関する研究、日本建築学会技術報告集、第22巻、第50号、pp. 331-334、2016.2

この研究の「強み」は?

実績のある産業用ロボットをベースとして開発したシステムの安定性、拡張性の高さが強みです。また、このシステムは多数の要素技術の集合体ですが、ソフトウエアからハードウエアまで開発の全てをチーム一丸となって取り組んでいます。幅広い技術エリアを一研究室でカバーできる組織力も他にない強みだと自負しています。

その他

近年、人工知能研究が再び脚光を浴びています。人工知能は人間の知能作業を代行するものです。これのアナロジーで、人間の技能作業を機械化することを人工技能とよびます。職人の繊細で正確な加工技術をロボットで実現できれば、生産技術に飛躍的な向上をもたらすでしょう。この研究の延長上に未来の建築施工技術があるといえるでしょう。

図1 伝統木造建築のパズルのような複雑な納まり

図2 試作対象の伝統木造建築(重文:法華経寺五重塔・千葉県市川市)

図3 ロボットによる部材加工

図4 屋根隅部の全部材一覧

図5 部材の反り、転びを忠実に再現した美しい木組みを見せる屋根隅部