特色ある研究活動の成果
Research

昆虫規範型羽ばたきロボット

昆虫規範型羽ばたきロボット

昆虫や鳥を規範としたさまざまな羽ばたき飛行ロボット(左からHarvard大、DelFly大、千葉大、AeroVironment社のMAV)

劉 浩教授

劉 浩

Liu Hao

千葉大学大学院工学研究科教授

専門分野:バイオメカニクス、バイオミメティクス(生物模倣)

1992横浜国立大学大学院工学研究科博士課程修了、博士(工学)、同年運輸省船舶技術研究所研究員、1993年科学技術振興機構・創造科学研究推進事業研究員、1998年名古屋工業大学助手、2000年理化学研究所先任研究員、2003年4月より現職。

どのような研究内容か?

生物規範メカニクス・システムの一貫として、近年生物規範飛行システムがとくに注目されています。生物飛行は、数ミリのハエから数センチのチョウやガまでの昆虫、数センチのハチドリから1メートルの白鳥、太古の数メートルと言われる空飛ぶ翼恐竜に亘り、多様なサイズや形態、運動性能や機能を見せます。昆虫は、毎秒数十回から数百回も羽ばたきする翅の運動が数多くの飛翔筋によって制御され、その結果自重(揚力)を支えながら、静止飛行や急旋回、急速なターンや突風などに対しても姿勢を保って飛行を継続できます。ジェット機や最近話題のドローンは時には落ちますが、昆虫は何故落ちないのか?何億年もの間自然淘汰の結果、進化し続けてきた昆虫や鳥など、生物飛行の基本である羽ばたき飛行の原理に対して、近年生物学、数学、機械工学、航空工学、計算機工学、材料科学等各分野の研究者が競って解き明かすことに挑んでいます。これにより、新しい航空力学の開拓と危険な災害現場などで役に立つような昆虫や鳥を規範とした超小型自律型飛行ロボットの開発が期待されています。

何の役に立つ研究なのか?

昆虫羽ばたき飛行のメカニクスとしては、主に「羽ばたき翼の力発生の原理」と「羽ばたき飛行の安定性及び機動性の原理」という二つの大きな課題があり、現在後者について、理路整然たる学理が存在しない故に、世界的に激しい研究競争が繰り広げられています。その背景では、近年災害時における空撮、農薬散布や沿岸監視、テロ現場での情報収集等を目的として、長さ・幅・高さ共に15cm以下、機体質量と荷重合計が50g以下の無人小型飛行体(MAV: Micro Air Vehicle)の研究開発が盛んに行われています。我々の身の周りには、翼長1m程度の鳥から1mm程度の昆虫までさまざまな飛翔生物が存在していますが、それらは長い自然淘汰の結果、それぞれの環境下で力学的に洗練されたものであるため、MAV設計の指針となる優れた設計図が無数存在します。

今後の計画は?

千葉大劉浩研究室では、生物羽ばたき飛行におけるこの二つの基本原理の解明を目指して、大規模統合力学シミュレーション、風洞実験及び羽ばたきロボットなどの研究を総合的に進めてきました。世界に先駆け昆虫羽ばたき飛行の飛行力学・流体力学・材料力学・飛行制御・運動最適化を統合した生物飛行統合力学シミュレータと、生物飛行と生物規範型飛行ロボット・流体機械の流体力学性能を測定・検証可能な回流型超低速風洞とDPIV(可視化画像流速計測)流体計測システムを開発しました。これまでは、最大サイズ10cm〜15cm、重さ3g〜10g、滞空時間5分〜10分のハチドリ規範型飛行ロボットの開発(図1)に成功しました。今後は、自然界や都市の様々な自然乱流のある極限環境下においても、昆虫や鳥のように自由自在に飛び回るような高機動性且つロバスト(制御可能)な小型飛行体の研究開発、さらに今話題になっているマルチロータ(回転翼)をもつドローンへの次世代生物規範型モデルの開発を遂行していく予定です。

関連ウェブサイトへのリンクURL

Liu Laboratory

成果を客観的に示す論文や新聞等での掲載の紹介

新聞等の紹介:
2015 TBS, EARTH Lab −次の100年を考える−"千葉大学教授・劉浩--ハチドリ型飛行ロボット", 2015年9月19日.
2014 日本経済新聞, "ハチドリ規範型羽ばたき飛行ロボット", 2014年6月19日.
2013 BBC, "Slow motion footage reveals hummingbird wing secret", June 7, 2013.
•朝日新聞, "災害現場羽ばたくロボ", 2013年8月23日.
関連論文:
1) H. Liu, S. Ravi, D. Kolomenskly, H. Tanaka. Mechanics and mimetics in bio-inspired flight system. Philosophical Transactions of the Royal Society B, 2016. (accepted)
2) T. Nakata, H. Liu, Y. Tanaka, N. Nishihashi, X. Wang, A. Sato, Flexible wings aerodynamics of a bio-inspired flapping micro air vehicle, Bioinspiration & Biomimetics, 6(4): 045002. 2011.

この研究の「強み」は?

生物の飛行に学び、模倣することにより、新しい航空力学の開拓、次世代ドローンの開発、そして生物の構造・運動•作動原理を規範とする生物規範工学の新学術領域の創成につながります。

研究への意気込みは?

つねにグローバル化のプラトフォームにおいて、世界最先端の研究を目指します。

学生や若手研究者へのメッセージ

生物学、機械工学、航空工学、計算科学、ロボット工学、材料工学などを含む学際性に富んだ新学術領域:生物規範工学は、皆さんの参加と挑戦を待っています。