超高機能有機分子ハニカムネットワークの創製と新奇物性観測
研究代表者坂本 一之
共同研究者①水津 理恵、②スイヅ リエ③Suizu Rie、④大学院融合科学研究科、⑤特任研究員、⑥合成化学・固体物性
※ ①氏名、②フリガナ、③ローマ字表記、④所属部局名、⑤職名、⑥専門分野

周期表を用いて研究室の名前と研究対象を示している

坂本 一之
Sakamoto Kazuyuki
千葉大学大学院融合科学研究科教授
専門分野:表面物性・低次元物性
1994年に大阪大学で博士(理学)を授与されたのち、東北大学助手、スウェーデン・リンショーピン大学研究員手等を経て2005年に千葉大学に着任。表面物理学の第一人者の一人である。固体表面上に作製した低次元物質の物性を活発に研究してきた。

どのような研究内容か?
物質は、同じ元素で構成されていてもその次元性が異なると性質が劇的に変わることがあります。例えば、炭素が三次元に結合した物質は強度の硬い絶縁体であるダイアモンドとして知られていますが、二次元のハニカム(蜂の巣)構造に結合した物質は金属的な性質を有しているグラファイトとなります。また、物質はその大きさがどんどん小さくなり、ナノメートルスケール(nm; 10-10メートル)になると性質が激変することがあります。シャープペンシルの芯などに使用されているグラファイトの厚さをどんどん薄くし、グラフェン(2010年のノーベル物理学賞の受賞対象物質)と呼ばれる1原子層の厚さになると、電子が非常に高速で移動できるなどグラファイトにはない性質が現れることがわかっています。しかし、このように1原子層の厚さの物質は残念ながら自然界にはほとんど存在せず、人工的に作成するしかありません。そこで私達は、固体表面上に1層の原子や分子を吸着させることで自然界に存在しない様々な二次元物質を作製しています。

何の役に立つ研究なのか?
このように固体表面上の作製した二次元物質は、電子が持っている磁石のような性質を利用する、"スピントロニクスデバイス"など、次世代デバイスへの応用が期待されます。特に有機分子を1層吸着させて作成するものは、例えば携帯電話の有機ELディスプレイなどに使用されている有機エレクトロルミネッセンス(EL)を高機能化できることが期待されます。

今後の計画は?
二次元物質を作製するだけではその有用性を議論することができません。また、二次元よりさらに次元を低くすることにより、さらに新しい性質が発現する可能性があります。そこで、今後の計画としては、種々の人工二次元物質のみでなく、1原子もしくは1分子幅の一次元物質、数原子・分子で構成される0次元のナノ粒子を作製し、その物理的・化学的な性質を調べることによって、低エネルギー消費・高機能なデバイスへの応用の可能性を探ることを計画しています。

関連ウェブサイトへのリンクURL

成果を客観的に示す論文や新聞等での掲載の紹介
"Self-assembled honeycomb lattice in the monolayer of cyclic thiazyl diradical BDTDA (= 4,4′-bis(1,2,3,5-dithiadiazolyl)) on Cu(111) with a zero-bias tunneling spectra anomaly",
M. Yamamoto et al., Sci. Rep. 5, 18359; doi: 10.1038/srep18359 (2015).

この研究の「強み」は?
この研究の強みは、
1.固体表面を用いることにより、自然界に存在しないまったく新しい物質を作製できること、
2.複数の元素を組み合わせたり、自ら設計して合成した分子を用いることにより、作製できる低次元物質が無限であること、
が挙げられます。

研究への意気込みは?
誰も思いつかなかった、次世代・次々世代デバイスの根幹となる、素晴らしい新奇な性質を有する人工低次元物質をこれからもどんどん作製します。

学生や若手研究者へのメッセージ
研究は、誰も歩いたことがない荒野を自らのアイデアと能力で突き進み、そこに桃源郷を作り出すようなものです。新しい性質を有する物質創製の研究は、日本国内だけでなく、海外の研究者と共に目の前に立ちはだかる問題に立ち向かい、解決し、人類に新しい英知を与える、という夢のある非常にやり甲斐のある仕事です。
今回の研究に用いた分子
今回の研究で得られた実験結果。走査トンネル顕微鏡を用いて観測したハニカム構造に並んだBDTDA分子。
光電子分光装置:物質中の電子の性質(運動など)を調べるための装置