家畜の生産性と飼育環境を改善させる新規プロバイオティクス
研究代表者児玉 浩明
共同研究者①宮本 浩邦、②ミヤモト ヒロクニ、③Miyamoto Hirokuni、④大学院融合科学研究科、⑤客員教授、⑥代謝生化学
※ ①氏名、②フリガナ、③ローマ字表記、④所属部局名、⑤職名、⑥専門分野

ブタの成長を促進させる働きのあるプロバイオティク細菌として同定されたBacillus hisashii N-11(T乗)

児玉 浩明
Kodama Hiroaki
千葉大学大学院融合科学研究科教授
専門分野:生物化学
1985年東北大学理学部卒、1990年理学博士。呉羽化学工業株式会社、九州大学を経て、1998年園芸学部助教授、2011年より現職。2009年より内閣府食品安全委員会専門委員、2013年より農林水産省農業資材審議会専門委員。2013年千葉大学発ベンチャー企業、(株)サーマスを起業(現在、基礎研究開発最高顧問)。遺伝子組換え技術、RNAサイレンシング技術を主とする植物分子生物学から、農業における好熱性微生物によるコンポストの生理機能まで、幅広い研究を行う。

どのような研究内容か?
未利用海産資源(小エビ、小カニ、小魚など)を高温で発酵させた好熱菌発酵産物は、ブタ、ニワトリなどの家畜に発酵飼料として利用されています。この発酵飼料を与えると、死産率の低下(ブタ)、成長促進(ブタ)、産卵率の向上(ニワトリ)などが認められ、生産性が向上します。投与されたブタのお肉では余分な脂肪分が減り、官能テストにより、柔らかくジューシーとの評価を受けました。現在、千葉大学発ベンチャー「株式会社サーマス」より「ノンメタポーク」として販売されています。好熱菌発酵産物の投与によって得られる家畜への「良い効果」は、好熱菌発酵産物に含まれるバクテリアによって家畜の腸内細菌叢が変化し、家畜の体調が良い状態に維持されることが原因と考えられます。そこで、家畜にとって「プロバイオティクス」として働いていると思われるバクテリアを単離し、得られたバクテリアを子ブタに投与したところ、増体効果が認められました。これらの成果は、千葉大学を含む産学連携グループによって特許として認められました(特許第5578375号)。中国とEUでも特許が成立しています。プロバイオティクスとして単離されたバクテリアには、すでに乳酸菌として利用されているBacillus coagulansに加え、新種のバクテリアが含まれていました。種の同定を進め、Bacillus hisashii N-11(T乗)と命名して発表しました。hisashiiという種小名は、好熱菌発酵産物の開発者の名前にちなんでいます。これらの成果は日本農芸化学会2016年度大会にてトピックス賞として選ばれました。

何の役に立つ研究なのか?
本研究の成果は、「ノンメタポーク」として実用化されており、また発酵飼料を与えられたニワトリの卵もスーパー等で販売されています。将来的にはヒトへの応用も期待されています。

今後の計画は?
日本の農業も国際的な競争にさらされています。今後、国産の家畜生産物についても輸入品との差別化が必要です。よりおいしく安全な生産物が安定に供給できるように、好熱菌発酵産物の研究を進めていきたいと思います。

関連ウェブサイトへのリンクURL

成果を客観的に示す論文や新聞等での掲載の紹介
発酵飼料から単離したプロバイオティクスをBacillus hisashii N-11Tとして報告した論文
Nishida A, Miyamoto H, Horiuchi S, Watanabe R, Morita H, Fukuda S, Ohno H, Ichinose S, Miyamoto H, Kodama H (2015) Bacillus hisashii sp. nov., isolated from the caeca of gnotobiotic mice fed with thermophile-fermented compost. Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 65: 3944-3949
好熱菌発酵産物が動物に与える影響および単離されたプロバイオティクスに関する特許
宮本浩邦、児玉浩明 他8名 特許第5578375号 登録日2014年7月18日 国際出願番号:PCT/JP2011/52735「好熱性微生物を用いた混合物、溶解液、及び医薬品」(中国では取得、EUは指定国に対して国内移行手続き中)

この研究の「強み」は?
(株)サーマス、日環科学株式会社、京葉プラントエンジニアリング株式会社などの企業と千葉大学、理化学研究所、慶応義塾大学、東京大学、金沢大学などの学術研究機関が協力して研究を進めていることが最大の「強み」と言えます。

研究への意気込みは?
Bacillus hisashiiやBacillus coagulansを動物が摂取することで、脂肪蓄積軽減効果に加え、家畜に使用されている抗生物質の投与量の削減が期待されています。プロバイオティクスとしてユニークな特徴を示すBacillus hisashiiの研究から、今後も予想もしなかったような成果がもたらされるのではないかと期待しています。

学生や若手研究者へのメッセージ
やがて皆さん、専門分野というものを持つようになります。でも、広い視野で自分が本当にやりたいこと、また、社会への貢献にあたって自分が果たせる役目をよく考え、たとえ専門分野と異なっていても自由に積極的に取り組んでいただきたいと思います。
好熱菌発酵産物が動物の生産性を向上させる具体的な事例
ノンメタポーク