特色ある研究活動の成果
Research

多血小板血漿は,凍結乾燥すれば長期保存後も骨癒合効果を発揮する

多血小板血漿は,凍結乾燥すれば長期保存後も骨癒合効果を発揮する

研究代表者折田 純久
共同研究者①大鳥 精司、②オオトリ セイジ、③Ohtori Seiji、④大学院医学研究院、⑤准教授、⑥脊椎領域、疼痛研究
①志賀 康浩、②シガ ヤスヒロ、③Shiga Yasuhiro、④医学部附属病院、⑤医員、⑥脊椎領域、疼痛研究
※ ①氏名、②フリガナ、③ローマ字表記、④所属部局名、⑤職名、⑥専門分野

凍結乾燥PRP

折田 純久助教

折田 純久

Orita Sumihisa
MD, Ph.D, Assistant professor

千葉大学医学部附属病院助教

1998年 東京大学工学部卒業(医用精密工学)
2000年 東京大学大学院工学系研究科修了(医用精密工学修士)
2004年 千葉大学医学部卒業(学士入学) 2006年 初期臨床研修修了(総合病院国保旭中央病院)、 千葉大学整形外科入局
2011~2012年 米国UCSD留学
2012年 千葉大学大学院 整形外科 医員
2013年 千葉大学大学院整形外科 助教

日本整形外科学会専門医
日本運動器疼痛学会評議員
日本脊椎脊髄病学会評議員
日整会認定脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定リウマチ医

現在の研究  低侵襲腰椎手術(特に前方固定法,Oblique lateral interbody fusion(OLIF) / eXtreme lateral interbody fusion(XLIF)),骨粗鬆性疼痛、関節痛、神経障害性疼痛、椎間板性疼痛、ロボティクスサージェリー(Computer aided surgery)、をメインテーマに研究を行っている。

どのような研究内容か?

自己血液を濃縮して作成される多血小板血漿(platelet rich plasma:PRP)は,ケガ・骨折などで傷んだ組織や骨の修復を促す多くの成長因子を含んでいるため,外傷分野で少しずつ臨床使用され始めています。脊椎分野では,手術部位に骨盤など別の部位から取った骨を移植し,周囲にある骨と一体化させ(骨癒合)安定化する固定術が頻用されますが,通常,骨癒合に1年以上を必要とすることも多く,十分に骨が一体化しないことで痛みや癒合の遅延・不全の原因となることもありました。脊椎手術後にできるだけ早期の骨癒合が得られれば,これらの問題点は解決されると考えられるため,本学では,PRPを応用して骨癒合を促進する研究を行ってきました。研究の初期段階で行った動物実験では,ラット脊椎に移植された骨は作成直後の新鮮なPRPを使うことで骨癒合が促進しました.しかし,ヒトの脊椎手術において同様に新鮮PRPを使用する場合,術直前に200-400mlの採血をしなければならず,術中の貧血など手術のリスクにもなります。そこで,我々はあらかじめ作成したPRPを保存しておき,手術の際に用いるという方法を考案しました。作成したPRPをそのまま常温や冷蔵で保存した場合は骨癒合に必要な成長因子は壊れてなくなってしまうため,凍結乾燥(フリーズドライ)による保存に注目しました。利点は常温で保存が可能であり,粉末状となることで保存が容易であり,使用時に濃度調整が可能という点です。我々は,このフリーズドライPRP中に新鮮PRPとほぼ遜色のない量の成長因子が含まれていることを既に確認しております。患者さんへの手術直前の侵襲のみならず事前にフリーズドライPRPを作成して保存しておくことで,新鮮PRPと同様の骨癒合の能力を持つPRPを術前に作成・準備できるということであります。本手法は,今までは,不可能と思われていた骨癒合促進効果をコントロールできるという点で非常に画期的であり,我々はフリーズドライPRPのもつ骨癒合効果を動物実験にて確認することとなりました。
研究の目的
長期保存したフリーズドライPRPの骨癒合促進効果を動物実験により評価すること。
研究の方法
ラットを用いて脊椎固定モデルを作成しました。具体的には,4群の実験群を作成し骨癒合の状態を術後4週,6週,8週,12週で単純X線で比較・評価しました。脊椎に移植した材料による動物の群分けは,①sham群(展開のみ),②自家骨群,③人工骨のみ群,④人工骨+フリーズドライPRP群,⑤BMP(骨形成タンパク;骨癒合を旺盛に促進するタンパク。骨癒合促進の陽性対照群[発癌性などのため本邦非承認])としました.また,術後12週で固定術後の脊柱を摘出し,各群での骨形成量および骨強度の基盤となる骨梁(骨組織内部の骨組み構造)について評価しました。あわせて,骨癒合が肉眼上認められた脊椎に対し,3点曲げ法によりどの程度の力を加えると骨癒合部が破綻するかという点について,力学的(骨の強さ)評価を施行しました。
研究成果
結果,術後早期の4週の段階で凍結乾燥PRP群およびBMP群の多くで骨癒合が開始していました.また,組織評価では,横突起と移植材料の境界が不明瞭になっておりほぼ一体化(リモデリング)しており,骨形成量はフリーズドライPRP群とBMP群で自家骨や人工骨単独群よりも有意に多い結果でした。リモデリング部の骨梁は自家骨群で太く分岐が少なく,フリーズドライPRP群とBMP群では骨梁が細く分岐が多い特徴でした。そして,3点曲げ法での強度評価では,自家骨群>フリーズドライPRP群>BMP群>人工骨のみ群>sham群の結果となり,自家骨群とフリーズドライPRP群に有意差はありませんでした。これらの結果から,フリーズドライPRPは新鮮PRP同様,骨癒合促進効果を持つことが分かり,さらに,強度としても良好な結果となりました。

何の役に立つ研究なのか?

高齢化社会では,脊椎疾患の増加に伴い脊椎を固定する手術が増えています。また,骨粗鬆症患者の増加とともに外傷による骨折も多くなっております。手術後や骨折後の骨癒合不全は高齢者の寝たきりの原因になり,社会問題となります。
PRP使用により骨癒合期間を短縮することが出来,強度も強くする可能性があります。
また,治療の際には事前に準備してあるPRPを使用出来るメリットがあります。
将来の整形外科治療に希望が持てる研究です。

今後の計画は?

研究を重ね,効果,安全性の確認を何度か行っていきます。動物実験での効果,十分な安全性が確認出来れば,臨床治験で慎重にヒトに使用していく方針です。

関連ウェブサイトへのリンクURL

千葉大学大学院医学研究院 整形外科学

成果を客観的に示す論文や新聞等での掲載の紹介

Kamoda H, Ohtori S, Ishikawa T,et al. The effect of platelet-rich plasma on posterolateral lumbar fusion in a rat model. J Bone Joint Surg Am. 2013 Jun 19;95(12):1109-16.

この研究の「強み」は?

多血小板血漿は人工的に作られた薬品と違い,自分自身の血液を濃縮させて作成します。安全性が高く,副作用が極めて少ないのが特徴です。凍結乾燥して保存することで,通常は,半日程度しか効果が持続しなかった有効成分(成長因子)を8週間維持出来ることが分かりました。安全性,効果の研究が更に進めば,多くの医療現場での応用利用で患者さんのお役に立てる可能性があります。

研究への意気込みは?

将来,多くの患者さんのお役に立てるよう日々PRP研究に取り組んでおります。

学生や若手研究者へのメッセージ

千葉大学当グループではこのような未来に繋がる可能性のある研究を盛んに行っております。
地道な研究が,将来の患者さんの為になると信じ,日々取り組んでおります。将来,一緒に研究出来る日が来ることを楽しみにしております。

術後4週でのX線

術後8週間での骨梁の特徴

強度試験(3点曲げ法)