特色ある研究活動の成果
Research

がん治療におけるNKT細胞を用いた免疫細胞治療

がん治療におけるNKT細胞を用いた免疫細胞治療

研究代表者岡本 美孝
共同研究者①櫻井 大樹、②サクライ ダイジュ、③Sakurai Daiju、④医学部附属病院、⑤講師(耳鼻咽喉・頭頸部外科)、
⑥頭頸部腫瘍の治療、上気道のアレルギー治療、耳鼻咽喉科専門医、アレルギー専門医
①國井 直樹、②クニイ ナオキ、③Kunii Naoki、④医学部附属病院、⑤助教(耳鼻咽喉・頭頸部外科)、
⑥頭頸部腫瘍の治療、耳鼻咽喉科専門医
①本橋 新一郎、②モトハシ シンイチロウ、③Motohashi Shinitirou、④医学部附属病院、⑤教授(未来開拓センター)、
⑥呼吸器外科、呼吸器外科学会認定登録医、外科学会認定登録医
※ ①氏名、②フリガナ、③ローマ字表記、④所属部局名、⑤職名、⑥専門分野

千葉大学発の免疫細胞療法で頭頸部がんの治療を目指す

岡本 美孝教授

岡本 美孝

Okamoto Yoshitaka

千葉大学医学部附属病院教授(耳鼻咽喉・頭頸部外科長、未来開拓センター長)

専門分野:頭頸部腫瘍の治療、上気道のアレルギー・感染症治療、耳鼻咽喉科専門医、アレルギー専門医

1979年秋田大学医学部卒、1985年から3年間ニューヨーク州立大学に留学し粘膜免疫の研究に従事、1996年山梨医科大学耳鼻咽喉科教授、2002年から現職。2011年から副院長、2014年から千葉大学教育研究評議員兼任。

どのような研究内容か?

私たちの身体の中にはウイルスや細菌などから身体を守る「免疫」の力があります。実は、健康な人でも1日に数千個といわれる遺伝子に傷が付くなどした異常な細胞が、細胞分裂の際に身体の中で作られていることが明らかになっています。放置しておくと勝手に増えて、がんになる可能性がある細胞です。しかし、私たちの持つ免疫の働きはこのような体内で作られる異常な細胞にも常に目を光らせて、増えないうちに排除していて、がんにならないで生活していくことが出来ています。このような免疫の働きの中心にいるのがリンパ球です。私たちが注目したのは「NKT細胞」という種類のリンパ球です。
実はこのNKT細胞は千葉大学の免疫学の研究者によって発見・確立されたものです。私たちの身体の中には少数(リンパ球の0.1%以下)しか存在しませんが、強い抗がん作用を有しています。直接がん細胞を殺すだけではなく、他のリンパ球の作用を高めて間接的にも抗がん作用を発揮します。そこで、このNKT細胞を実際の治療に応用して、がん患者さんの体内で増やす、あるいは身体から採血で取り出し試験管の中で増やしてがんに投与することで治療を行うものです。

何の役に立つ研究なのか?

頭頸部がん(耳鼻咽喉科で扱うがんで、鼻、口腔、咽頭、喉頭、唾液腺などに発生するがん)の治療には手術、放射線、抗がん剤が用いられます。実際にはこれらの治療を組み合わせて行われますが、手術による食事や発声への障害、変形、抗がん剤や放射線による副作用などから治療による患者さんへの負担は大きなものがあります。一方で進行したがんの治療成績は依然として不良です。治療にNKT細胞免疫治療を応用することで患者さんに負担が少なく、かつ治療成績を向上させることが目的です。

今後の計画は?

NKT細胞を活性化・増殖させる薬剤をつけた樹状細胞の治療は、先進医療として認められました。現在、進行した頭頸部がんに罹患していましたが、従来の手術や放射線療法により腫瘍が消失したと判断される患者さんを対象に、この細胞(0.2ml)を鼻の粘膜に投与することで再発リスクを減少させられるかどうか、検討を進めています。
また、頭頸部がんに栄養を送る動脈血管に、活性化したNKT細胞を集中的に投与する動脈注入投与は、1人の頭頸部がん患者さんに1回のみの投与でしたが腫瘍に一定の縮小効果をもたらしました。しかし、元来血液中には少ししかいないNKT細胞を十分な数に増やすのは容易ではなく、増殖させることが困難な患者さんもいました。理化学研究所で作製に成功したNKT細胞由来のiPS細胞は簡単に十分な数のiPS―NKT細胞を準備することが可能です。そこで、従来の治療で再発してしまい有効な治療がない頭頸部がん患者さんに、このiPS-NKT細胞を繰り返し動脈投与することで大きな治療効果がみられることを期待して共同開発にあたっています。

成果を客観的に示す論文や新聞等での掲載の紹介

腫瘍免疫、臨床免疫学の国際誌に多数掲載。
2007年5月日本経済新聞で千葉大学の頭頸部がんへのNKT細胞療法紹介、2015年4月に読売新聞で千葉大学と理化学研究所との共同でiPS-NKT細胞用いたがん治療を目指した研究紹介。

この研究の「強み」は?

千葉大学で発見、確立されたNKT細胞を利用し、かつ鼻の粘膜が持つ独特な免疫の活用と腫瘍に栄養を送る動脈に直接NKT細胞を投与するオリジナリティの高い研究です。さらには世界で始めて、iPS細胞のがん治療への利用を目指します。

研究への意気込みは?

がんに苦しむ患者さんに福音となる治療を千葉大学から世界に届けることを目標に頑張っています。

学生や若手研究者へのメッセージ

あきらめないで続けることが研究の喜び、そして成果に繋がると信じています。

頭頸部がん(日本ではがんの約5%)

樹状細胞(抗原提示細胞)を利用した免疫療法

NKT細胞を直接腫瘍の栄養血管に投与(動脈投与)してがんの治療を行う

iPS技術を用いたNKT細胞移入療法の概要