特色ある研究活動の成果
Research

モンゴル牧畜民の「砂漠化」対策―牧畜社会の動態

モンゴル牧畜民の「砂漠化」対策―牧畜社会の動態

内モンゴルの定住牧畜民。羊毛を街に売りに行くところ

写真1:内モンゴルの定住牧畜民。羊毛を街に売りに行くところ。

児玉 香菜子准教授

児玉 香菜子

Kodama Kanako

人文科学研究院 准教授

専門分野:文化人類学

2006年名古屋大学大学院文学研究科博士課程後期課程満期退学。在学中に中国浙江大学(1年)および内モンゴル大学(2年)に留学。2007年博士(文学)。2004年~2006年日本学術振興会特別研究員(DC2)、2006年~2007年同(PD)、2007年~2009年総合地球環境学研究所中国環境問題研究拠点研究員、2009年~17年千葉大学文学部准教授、2017年~同・人文科学研究院准教授、現在にいたる。2020年10月より米国ペンシルベニア大学visiting scholar。2015年から片倉もとこ記念沙漠文化財団理事を務める。

どのような研究内容か?

 牧畜について主に中国内モンゴル自治区でフィールドワークを行っています。
 中国内モンゴル牧畜民は、「砂漠化」と社会主義体制の方向転換のなかで激しい変化を強いられてきました。「砂漠化」の原因としてまずあげられるのが過放牧です。過放牧言説はモンゴル牧畜民が経済的利益を求めて本来飼養可能な頭数以上の家畜を飼うことによって牧地が荒れ、「砂漠化」し、砂嵐が起きる、というものです。しかし、フィールドワークによって、実際には「砂漠化」とは干ばつという降水量の減少であり、牧畜民は「砂漠化」の最大の被害者であること、マーケットを巧みに利用して砂漠化に対応していることを明らかにしました。しかしながら、中国政府が採用した環境政策は「生態移民」や「退牧還草」といって牧畜をやめさせる、もしくは牧畜を制限するものでした。これらの政策による負の影響は「砂漠化」をより悪化させるだけでなく、経済的にも文化的にもきわめて大きいものがあります。
 もう一つ取り組んでいるのが牧畜民のオーラルヒストリーによる自然環境と社会環境の変化の解明です。過去60年間で豊かな自然が失われるとともに、社会主義近代化による牧畜社会の変容、そして文化大革命では多くの犠牲が出たことを明らかにしました。
 研究をささえる大きな問題意識は、乾燥地における人間の文化とその現代的変容です。これまでモンゴルにとどまらず、世界の乾燥地の研究者と研究交流をはかってきました。その成果の一つとして、乾燥地における生活と文化について編集を担当した『沙漠学事典』(丸善,2020年)があります。
 また、沙漠、乾燥地研究の第一人者である赤木祥彦福岡教育大学名誉教授が収集された文献および一次資料の目録作りに取り組んでいます。

何の役に立つ研究なのか?

 日本人が取り組んできた砂漠化対策に植林があります。しかしながら、内モンゴルはもともと年降水量が少ない乾燥地で、本来の土地景観は草原です。乾燥地のモンゴルに木を植えて、「森」をつくることは果たして可能でしょうか。同じ「緑」でも文化が異なれば、理解が異なる。そうした当たり前すぎて気が付かないことを教えてくれる面白さが人類学のフィールドワークにはあります。今後グローバル化が進む中で、自身の自然観や文化を外から考えることの重要性を教えてくれると考えます。

今後の計画は?

 現在は、大都市に移住したモンゴル牧畜民女性の研究に取り組んでいます。この過程で、都市に暮らすようになった女性たちの生活、とりわけ教育とことばの問題に関心をもつようになりました。そんななか、2020年9月から中国政府はモンゴル人に対して標準中国語(漢語)教育を強化する政策をはじめました。これに対して、国内外のモンゴル人から大きな反発が起きています。研究者としてできることを考えつつ、都市在住のモンゴル人の言語環境と教育についても研究していきたいと思っています。

関連ウェブサイトへのリンクURL

教員要覧
https://www.l.chiba-u.jp/applicants/teachers/kanako_kodama.html

モンゴル国の遊牧民。馬に乗ってヒツジとヤギの放牧へ

写真2:モンゴル国の遊牧民。馬に乗ってヒツジとヤギの放牧へ。

街の入り口に建築中の生態移民用のマンション群

写真3:街の入り口に建築中の生態移民用のマンション群。

Ecological Migration: Environmental Policy in China(Peter Lang, 2010年)

写真4:Ecological Migration: Environmental Policy in China(Peter Lang, 2010年)

『極乾内モンゴル・ゴビ砂漠、黒河オアシスに生きる男たち23 人の人生』(アフロ・ユーラシア内陸乾燥地文明叢書10 名古屋大学文学研究科比較人文学研究室 2014年刊)

写真5:『極乾内モンゴル・ゴビ砂漠、黒河オアシスに生きる男たち23 人の人生』(アフロ・ユーラシア内陸乾燥地文明叢書10 名古屋大学文学研究科比較人文学研究室 2014年刊)