特色ある研究活動の成果
Research

知と技術の歴史学 -史資料の収集と研究拠点の形成をめざして-

知と技術の歴史学 -史資料の収集と研究拠点の形成をめざして-

研究代表者大峰 真理
共同研究者①秋葉淳、②アキバ ジュン、③AKIBA Jun、④文学部、⑤准教授、⑥オスマン帝国史
①引野亨輔、②ヒキノ キョウスケ、③HIKINO Kyosuke、④文学部、⑤准教授、⑥近世日本史
①山田俊輔、②ヤマダ シュンスケ、③YAMADA Shunsuke、④文学部、⑤准教授、⑥日本考古学
①内山直樹、②ウチヤマ ナオキ、③UCHIYAMA Naoki、④文学部、⑤教授、⑥中国哲学
※ ①氏名、②フリガナ、③ローマ字表記、④所属部局名、⑤職名、⑥専門分野

背景は「船舶艤装申告書」(1745年) 提供:大峰真理

大峰 真理教授

大峰 真理

Omine Mari

千葉大学文学部教授

専門分野:近世フランス史

福岡県出身。1989年西南学院大学文学部卒業。1996年九州大学大学院文学研究科博士後期課程を単位取得退学。1999年博士(文学)九州大学。2000年千葉大学文学部に助教授として着任。2001~2003年日本学術振興会海外特別研究員としてフランス共和国・パリ第4=ソルボンヌ大学で在外研究、D.E.A.(専門研究課程修了証書)取得。2014年より現職。研究テーマは18世紀フランス国際商業。とくに奴隷貿易について船舶艤装業者たちの活動を分析し、彼らが展開した商業ネットワークの広がりを考察する。

どのような研究内容か?

本研究プログラムのキーワードは、「知」と「技術」です。メンバーは、それぞれが専門領域として取り組む地域と時代について、【だれがどのような「知」や「技術」を集め管理するのか】また【それらはどのような過程をへて社会の中に拡散していくのか】を観察するために必要な史資料-人間のいとなみを記録したもの-を発掘・調査し、体系的に収集し、それらを分析・考察します。そして、えられた研究成果を相互に提供しあい、歴史の展開を複眼的に理解することを目指しています。

何の役に立つ研究なのか?

いつの時代にあっても、どの場所にいても、わたくしたち人間は「もっと知りたい」「えた知識や技術を使いたい、伝えたい」と欲求します。この欲求こそが文明を生み出し、それに活力をあたえ、社会を編成する原動力になります。文明社会の基礎をなし、その進展を保証する要素-「知」と「技術」-に着目する本研究は、人間の多様ないとなみの歴史の本質を理解することに役立ちます。

今後の計画は?

これまでにわたくしたちは、複数の学内外研究者と連携して研究会やシンポジウムを開催しました。その様子は、プログラムHPでご覧いただけます。今後は、さらに学内外の研究者を巻き込みながら、研究会を継続的かつ定期的に開催するとともに、出版物等をとおして成果を公表します。すでに、(1)亥鼻キャンパスに所蔵される「古医書コレクション」を読解・分析する作業(2)オスマン帝国裁判官遺産目録の調査に関する共同研究(3)ヨーロッパ国際商業に関連する公・私文書の調査と整理といった活動に着手しています。

関連ウェブサイトへのリンクURL

わたくしたちの研究活動は、プログラムHPでご覧いただけます。

成果を客観的に示す論文や新聞等での掲載の紹介

本プログラムは2013年7月に始動し、2015年3月末までに10件の専門書と学術論文、9件の国内外での学会報告を公表しました。専門書と学術論文のうちおもなものは、次の通りです。
【専門書、学術論文】
◇引野亨輔ほか編『シリーズ日本人と宗教 第5巻』(春秋社、2015年)
◇秋葉淳ほか編『近代・イスラームの教育社会史 -オスマン帝国からの展望』(昭和堂、2014年)
◇余嘉錫著、内山直樹ほか訳註『目録学発微 -中国文献分類法』(平凡社、2013年)
◇大峰真理「18世紀前半フランス・ナントの海運業 -史料「船舶艤装申告書」を手がかりに-」
『社会経済史学』(79巻1号、2013年)

この研究の「強み」は?

千葉大学文学部には、人間それ自体とそのいとなみについて、さまざまな視点から実証的基礎研究をおこなう研究者が多く在籍します。本研究の強みは、この既存の知的財産を「知」と「技術」というキーワードで有機的に接合させるための蝶番となりえるところです。わたくしたち6人のメンバーに限ってみても、それぞれが研究対象とする地域は、日本列島からアジアをへてヨーロッパまで広がり、時代は古代から近代にまでおよびます。また分析する史資料は、文字-古文書や書物-とモノ-考古学遺物および文字が記されるさまざまな素材-と多岐にわたります。人文基礎科学の核である歴史学、考古学、哲学という学問分野の方法論を修得した研究者が集まり、成果を披露しあい情報を交換し議論する環境を自覚的にもつことは、人文研究の重層的な進展に寄与できると考えます。

研究への意気込みは?

人文科学系の研究者にむけられる視線や評価は、「毎日、文書や書物や遺物を読み解くことに明け暮れて、いったい何をしたいのか?」といったものが多いかもしれません。確かに、わたくしたちは「華々しい発見」からはずいぶん遠い場所にいるのだろう、とも思います。しかしわたくしたちは、人間そのものと人間が築き上げてきた社会のあり様と変化を観察し、先人たちがどのようないとなみを紡いできたのかを知ることこそが、現在と未来を生きぬく知恵になると確信しています。

学生や若手研究者へのメッセージ

「研究テーマが見つからない」「論文の構成がうまくいかない」という相談をしばしば受けますが、わたくしはいつも、「難しく考えるふりをする必要はない」と答えています。わたくしたちが知らないことやきちんと説明できない問題は、身の回りにたくさんあります。どうか、「知らない」ことや「説明できない」ことを恥ずかしいと思わずに、素直に単純に辞典や事典で調べることからはじめてください。「知りたい」という欲求が人間の本質であり、「調べよう」「理解しよう」とする行為そのものが文明の形成にほかなりません。「知りたい」ことを調べ考えぬき、その成果を自分以外の人間に分かりやすく伝えるために工夫することに貪欲であり続けてください。

群馬県 保渡田八幡塚古墳

「人口調査台帳」(1830年) 提供:秋葉淳

「妙政寺由緒書」(19世紀初頭) 提供:引野亨輔

多羅樹の葉にビルマ語で書かれた資料 提供:岩城高広