アイヌ語音声資料の分析とアイヌ語学習教材の整備・公開

アイヌ語児童教材:ボードゲーム

中川 裕
Nakagawa Hiroshi
千葉大学大学院人文科学研究院教授
専門分野:言語学、アイヌ語学、アイヌ口承文芸学
1978年東京大学文学部卒業。1981年東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。文学修士。1984年東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退。同年、東京大学文学部助手。1985年千葉大学文学部専任講師。1987年千葉大学文学部助教授。1999年千葉大学文学部教授。2011-2012年度千葉大学人文社会科学研究科長。2015年-日本口承文芸学会理事。

どのような研究内容か?
文化庁受託研究事業
1.北海道平取町二風谷アイヌ文化博物館アイヌ口承文芸資料の公開
同博物館との共同研究で、同館所蔵のオープンリールテープ24本に納められたアイヌ口承文芸資料を解読し公開した事業です。作業は千葉大院生と平取町のアイヌの人たちが参加して、合同で研究会を開きながら行い、地元のアイヌ語継承活動の人材育成に貢献した事業ともなっています。
北海道大学受託研究事業
2.アイヌ語鵡川方言 日本語‐アイヌ語辞典
映像作家である故片山龍峯氏が残したアイヌ語鵡川方言音声資料約150時間分から作成した、見出し語数約6500語の音声データ付辞書です。ウェブ上で本格的に使えるアイヌ語辞典としても、日本語引きのアイヌ語辞典としても世界最初の試みです。
3.アイヌ語児童教材
子供たちが楽しみながらアイヌ語を学べることを目的に、ウェブ上にボードゲームとカードゲームを作成しました。制作にあたって首都圏で暮らすアイヌの子供たちに参加してもらい、アイディアの提供や音声の吹き込みなどをやってもらうという画期的な試みを行っています。
4.アイヌ語音声資料アーカイヴズ
中川が過去40年間にわたって記録してきたアイヌ語の様々な物語を、ローマ字表記、カナ表記、日本語訳、注記の4つの項目のどの組み合わせでも表示することができ、その部分の音声とともに視聴することができるシステムを、ウェブ上に作成して公開しています。

何の役に立つ研究なのか?
アイヌ語は日本固有の言語であり、かつ日本語とは系統関係の無い別の言語です。長年、その消滅が危惧されてきましたが、近年少しずつ学習環境が整ってきて、アイヌの若い人たちにも自分たちの言葉として学ぶ人が増えてきています。2020年には日本で5番目の国立博物館としてアイヌ文化博物館が北海道に開設されることも決まっています。しかし、一般の人がアイヌ語を学習するための教材はまだごく限られたものでしかありません。
千葉大学では長年にわたってアイヌ語に関する研究活動を続けており、多くの研究者を輩出しています。今回の研究は千葉大はじめ各地に保存されている音声資料を活用し、研究者ではない一般の人、特にアイヌの人たち自身が学習するための教材を作成して、アイヌ語の活性化に貢献しようという試みです。

今後の計画は?
1.2.3についてはほぼ完成しましたが、4の千葉大資料についてはまだシステムが完成しただけで、肝心のデータがわずかしか入力されていません。これを充実させていくのが今後しばらくの作業となるとともに、それぞれの資料を大いに利用してもらって、その意見をフィードバックさせて、より良いものにしていきたいと思っています。

関連ウェブサイトへのリンクURL
二風谷アイヌ文化博物館
千葉大学人文社会科学研究科地域研究センターホームページ
(現在は千葉大学大学院人文科学研究院地域研究センターホームページ)
「アイヌ語鵡川方言 日本語‐アイヌ語辞典」
「アイヌ語児童教材」
「アイヌ語音声資料アーカイヴズ」(現在は廃止)

成果を客観的に示す論文や新聞等での掲載の紹介
国立大学法人千葉大学編(2015)『アイヌ語の保存・継承に必要なアーカイブ化に関する調査研究事業 第2年次(北海道沙流郡平取町)』国立大学法人千葉大学(総頁数2388頁)
平取町の人たちと千葉大院生の合同研究会:人文社会科学研究科棟グラジュエイトラウンジ
文化庁受託研究事業成果報告会:北海道大学
アイヌ語児童教材:カードゲーム