特色ある研究活動の成果
Research

縄文土器における器種の複雑化の解明と用途研究

縄文土器における器種の複雑化の解明と用途研究

図1 土器器種の複雑化の研究

阿部 昭典准教授

阿部 昭典

ABE Akinori

大学院人文科学研究院准教授

専門分野:先史考古学

1973年山形県生まれ。
2004年3月國學院大學大学院文学研究科日本史学専攻博士課程後期を修了し、博士号(歴史学)取得。
國學院大學伝統文化リサーチセンターの客員研究員(2008年4月~2012年3月)、
新潟大学人文学部助教(2013年4月~2015年3月)を経て、2015年4月から千葉大学文学部助教に着任。2017年4月からは同准教授に着任(2018年4月から大学院人文科学研究院所属に変更)

どのような研究内容か?

 縄文時代は、年代測定データから1万年以上の年代幅があると考えられています。これらの縄文時代の文化や社会は、ほとんど変化がないわけではなく、緩やかな変化とともに急激な変化が存在しています。縄文土器は出現してから約8,000年の間は尖底や丸底の深鉢で煮沸が主な用途と考えられます。その後、文様や形だけでなく、土器器種も消長を繰り返すなかで段階的に細分化していくことが分かってきています。しかし、これらの器種研究は、編年研究に偏重する傾向があり、用途研究は停滞している状況です。
 これまでは注口土器や浅鉢、壺形土器などに注目して、空間や時間的広がりやその変化を明らかにしてきました。その過程のなかで、土器における使用痕や出土状況の分析、土器内面付着物の理化学分析を組み合わせて、土器の機能・用途を検討してきています。理化学分析は、以前より東京大学の國木田大氏と共同研究を進めてきています。特に注口付浅鉢は、縄文時代中期末葉(約4,500年前)に東北南部で出現する器種で、それ以前の浅鉢は煮沸には使われていませんでしたが、注口がついて煮炊きの道具へと変貌します。土器の使用痕分析や付着物の理化学分析(炭素・窒素同位体分析、C/N比分析)からは、通常の深鉢とは異なる内容物であり、加熱の仕方も異なることが明らかになりました。つまり、中期末に深鉢とは異なる用途の煮沸具が出現したことになります。これらの器種が、縄文後期以降どのような系譜をたどるのかは現在調査・分析中です。(図1)

何の役に立つ研究なのか?

 これらの土器器種の複雑化のプロセスや用途を解明することで、縄文時代の文化や社会の複雑化の一端を明らかにできると考えられます。しかし、土器だけでは当時の社会を解明することは難しく、私の研究法としては、集落構造・構成、竪穴住居跡・炉形態、配石遺構(環状列石等)、埋葬、儀器、生業形態等の個々の要素を研究して、これらを総合的に検討することで、文字をもたない人々の社会や文化の一部を明らかにできると考えています。文字資料がない時代なので、簡単ではありませんが、モノやその出土状況等の分析から、過去の事実を解き明かしていくことが面白いところです。

今後の計画は?

 まず、縄文土器の土器器種の研究では、煮沸具の変化に加えて、壺形土器などの貯蔵具の動態を明らかにし、土器器種の複雑化の過程を解明していく予定です。特に注口土器や壺形土器は、大きくは貯蔵具であると理解され、これらの機能・用途について多方面から分析を進めています。
 また千葉大学考古学研究室では、房総半島南部で発掘調査を実施し、縄文時代から古墳時代の遺跡を対象として継続的に調査研究を行っています。2017年度からは、縄文時代中期中葉~後期前葉にかけての集落遺跡である深名瀬畠遺跡の発掘調査に取りかかっています。房総半島最南端に位置する縄文中期の集落構造を解明することと、人やモノ、情報伝達などによる地域間の交流のあり方を解明したいと考えています。本遺跡では、これまでの研究においても、土器文様や黒曜石の産地データなどから、三浦半島以西地域や伊豆半島・諸島(神津島)との交流が想定されています。これらを科学的に解明するために、土器文様や石器製作技術の分析に加えて、黒曜石や土器胎土の蛍光X線分析等による産地分析によりデータを蓄積する必要があります。これらの産地分析については、建石徹氏らとの共同研究から、産地推定と資源・人の動きについて解明しようと計画しています。また発掘調査では、微細な動物遺体や植物遺体の検出を目指すとともに、土器内面付着物の理化学分析も行う予定です。これらの分析研究から、先史時代の房総半島南部における、海浜地域の人々の食生活や地域間の交流を明らかにできればと考えています。(図2)
 また最近の考古学研究で注目されている三次元計測を用いて、昨年度から縄文時代の配石遺構研究に着手しています。昨年は、国指定特別史跡である秋田県鹿角市大湯環状列石において、環状列石の三次元測量調査を実施しています。本研究は、東京大学の岩城克洋氏の協力を得て実施しており、三次元データによる記録とともに、構造的解析を目的としています。これらは環状列石を含めた大規模構築物や配石遺構が、中期末以降になぜ構築されたのかを解明するための研究の一環です。(図3)
 このような調査研究を地道に積み重ねることで、日本列島の東日本における先史社会の解明とともに、これらの社会変動とその要因を読み解いていくことが大きな研究課題となります。さらには、「縄文時代」と呼ばれている狩猟採集を中心とする時代を、幾つかの段階に区分することも可能であり、小文化圏の設定とともに、先史時代を新たな枠組みで捉えていくことを模索しています。
(著書1・2)

関連ウェブサイトへのリンクURL

http://www.l.chiba-u.jp/applicants/teachers/abe_akinori_h.html

図2 深名瀬畠遺跡の調査研究

図3 環状列石の三次元測量調査

図4 著書1『縄文時代の社会変動論』

図5 著書2『縄文の儀器と世界観』