特色ある研究活動の成果
Research

2型ヘルパーT細胞(Th2細胞):健康と疾患/アレルギー疾患の最先端研究

2型ヘルパーT細胞(Th2細胞):健康と疾患/アレルギー疾患の最先端研究

中山 俊憲

中山 俊憲

Toshinori Nakayama

大学院医学研究院 免疫発生学教授

専門分野:免疫学

千葉大学大学院 医学研究院 免疫発生学教授(2017年7月時点)。
山口大学医学部卒業、東京大学大学院医学系研究科修了。2001年に千葉大学に着任、2004年より現職。2014年7月より千葉大学副学長(未来医療)、未来医療教育研究機構 機構長、2015年より千葉大学大学院医学研究院長・医学部長。

どのような研究内容か?

 研究室では免疫のメカニズムを解明して、新しい医療の可能性につなげていくという研究を行っています。免疫というのは、体外から入ってきた「自分ではないもの」を排除する仕組みですが、過剰反応があるとアレルギーを引き起こします。花粉症や食物アレルギーが代表的な例ですが、近年ではがん・糖尿病・リウマチなどの病気にも免疫が関係していることがわかってきています。
 私の研究の核の一つである「免疫記憶」とは、簡単に言えば体が過去にかかった病気を覚えていて抗体をつくるというもので、これが利用されているのがワクチンです。この記憶を担う細胞が慢性的な炎症を起こすと、病気を誘発することがあります。この炎症を起こす細胞をピンポイントに取り除く治療法の開発研究の結果を2016年に発表しました。現在ぜんそくなどの重度の呼吸器疾患の治療薬として実用化するため、更なる研究を進めています。また今回、これまでのアレルギー研究の成果をまとめて発表しました。

何の役に立つ研究なのか?

 アトピー性皮膚炎、花粉症といったアレルギー疾患にかかる人は今や国民の約3割にも上ります。アレルギー性疾患に関わる私たちの体内の免疫システムは、がん、動脈硬化などにも関わっており、しくみが解明されれば様々な疾患の新しい治療方法につながる可能性があります。

今後の計画は?

 現在のワクチンではエボラ・新型インフルエンザ・エイズ・結核などの新興・再興感染症の侵入を完全に食い止めることができず、有効な治療とは言えません。
 今後我々が「病気にかからない予防ワクチン」という次世代型のワクチンを開発できれば、病原体の入口である粘膜において免疫力を上げ、病原体の感染そのものを止めることが可能となり、超高齢化社会での健康増進と生活の質(QOL)の向上に貢献することができます。

関連ウェブサイトへのリンクURL

千葉大学大学院 医学研究院 免疫発生学

成果を客観的に示す論文や新聞等での掲載の紹介

1) Nakayama T, Hirahara K, Onodera A, Endo Y, Hosokawa H, Shinoda K, Tumes DJ, and Okamoto Y: Th2 Cells in Health and Disease. Annu. Rev. Immunol. 35:53-84 (2017).
2) Nakayama T: Introduction to "allergic inflammation". Immunol. Rev. 278(1): 5-7 (2017).
3) Tumes DJ, Papadopoulos M, Endo Y, Onodera A, Hirahara K, and Nakayama T: Epigenetic regulation of T-helper cell differentiation, memory, and plasticity in allergic asthma. Immunol. Rev. 278(1):8-19 (2017).
4) Kimura MY, Hayashizaki K, Tokoyoda K, Takamura S, Motohashi S, and Nakayama T: Crucial role for CD69 in allergic inflammatory responses: CD69-Myl9 system in the pathogenesis of airway inflammation. Immunol. Rev. 278(1):87-100 (2017).
5) Hayashizaki K,* Kimura MY,* Tokoyoda K,* Hosokawa H, Shinoda K, Hirahara K, Ichikawa T, Onodera A, Hanazawa A, Iwamura C, Kakuta J, Muramoto K, Motohashi S, Tumes DJ, Iinuma T, Yamamoto H, Ikehara Y, Okamoto Y, and Nakayama T: Myosin light chain 9 and 12 are functional ligands for CD69 that regulate airway inflammation. (*these authors contributed equally to this work) Sci. Immunol. 1:pp.eaaf9154 (2016)

学生や若手研究者へのメッセージ

 感染症・アレルギー・癌等の新規予防・治療法を開発して人類の健康に貢献したいと思う、向上心のある学生さんへ。免疫学での研究は成果が出るまでに何年もかかることが多いのですが、生命科学の未知なる知識を追求する好奇心とともに、人類の健康増進という理想に向け私たちと新しい一歩を踏み出しましょう。

 ぜんそくなどの難治性呼吸器疾患患者さんの肺組織では、CD69分子を発現した病原性免疫細胞がIL-5などの炎症を引き起こす分泌分子であるサイトカインを多量に産出するために、炎症が悪化します(左図)。
 私たちは、この病原性免疫細胞が血管から出て肺組織内に侵入するために必要なタンパク質、「Myosin light chain 9/12 (Myl9/12)」を発見しました。このタンパク質(Myl9/12分子)は、炎症にともなって血小板から放出され、血管の内側に「ネット様構造(Myl9 nets)」を形成します。この「Myl9 nets」が、病原性免疫細胞が血管から外に出る際の "プラットフォーム"として働いていると考えられます (『CD69-Myl9システム』と命名)(左図)。
 さらに、CD69とMyl9/12分子の相互作用を阻害する抗体を作成し、ぜんそくマウスに投与する実験を行ったところ、ぜんそく症状が抑えられることが分かりました(右図)。
 この動物実験の結果は、私たちの作成した抗体がヒトでの難治性呼吸器疾患の画期的治療薬となる可能性があることを示しています。現在、企業との共同開発研究で、ヒトへの投与が可能なヒト型抗体の作成がすでに成功しており、実用化に向けての開発は着実に進行中です。ぜんそくなどの難治性呼吸器疾患に苦しむ患者さんに、速やかに効果的な治療法を届けるために、現在更なる研究を精力的に行っています。

 最近の研究で、日本でも増加している難治性炎症疾患の好酸球性副鼻腔炎患者さんのポリープ中にもMyl9 netsが多くあることが確認されました。CD69-Myl9システムが、ぜんそくだけでなく他の慢性炎症疾患の慢性化や難治性の根本的な原因となっている可能性があります。