特色ある研究活動の成果
Research

DNAから紐解く植物と根粒菌の共生関係の進化

DNAから紐解く植物と根粒菌の共生関係の進化

研究代表者
土松 隆志
共同研究者
①氏名、②フリガナ、③ローマ字表記、④所属部局名、⑤職名、⑥専門分野
①番場 大、②バンバ マサル、③Bamba Masaru、④融合理工学府、⑤大学院博士課程3年(当時;現職・東北大学大学院生命科学研究科・学術研究員)、⑥微生物学・進化生物学

土松隆志客員准教授

土松 隆志

Tsuchimatsu Takashi

理学研究院 客員准教授

専門分野:進化生物学

2010 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻博士課程修了
2010-2011 チューリッヒ大学理学部・博士研究員
2012-2014 オーストリア科学アカデミー グレゴール・メンデル研究所・博士研究員
2014-2015 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻・助教
2016-2020 千葉大学大学院理学研究院・准教授
2020-現在  東京大学大学院理学系研究科・准教授 / 千葉大学大学院理学研究院・客員准教授

どのような研究内容か?

 マメ科植物は世界中で農作物として利用されていますが、その理由のひとつに、共生する根粒菌から栄養を得られるため、痩せた土地でも旺盛に生育できるという点が挙げられます。根粒菌は土壌細菌の一種で、根粒と呼ばれるマメ科植物が根に形成する粒状の器官の中に大量に含まれています。根粒菌は大気中の窒素をアンモニアに変換して植物に栄養を供給する一方、その報酬として光合成産物を植物から得ることで圧倒的に増殖できるようになるなど、両者は利益を与え合う相利関係になっています。
 マメ科植物と根粒菌の共生関係には、互いに特定の種のグループとしか共生関係を結べないという特異性があると言われています。例えば、ダイズはBradyrhizobiumと呼ばれるダイズ根粒菌と共生しますが、エンドウやインゲンマメはRhizobiumと呼ばれる根粒菌と共生し、ダイズ根粒菌とは共生しません。しかしこれまでの研究では、自然環境下である1つの植物種が実際にどれくらい多様な根粒菌と共生しているのか? また、根粒菌はどのようにして植物との共生関係を築いてきたのか? といった問題は未解明でした。
 そこで、私の研究室に所属する大学院生の番場大さんは、1種あたりのマメ科の野生植物がどのような根粒菌と共生するのか、その共生関係に関わる遺伝子が根粒菌のなかでどのように進化してきたのかを明らかにするために、日本各地に生育するマメ科のミヤコグサ(Lotus japonicus;図1)が自然環境下で共生している根粒菌を調査しました。 調査は日本国内の14地点で行われ、各地でミヤコグサと共生している根粒菌計106株を採取しました。採取された根粒菌のDNAを抽出し、まず細胞の維持や増殖に不可欠な必須遺伝子群のうち3つを選びその塩基配列を解析することで、採取した106株の根粒菌がそれぞれどのような種類かを調べました。すると、すべてMesorhizobiumと呼ばれる細菌の大きなグループに属していたものの、10種以上のさまざまな根粒菌種の配列が含まれ、植物1種に対して共生する根粒菌は非常に多様であることがわかりました。
 根粒菌は「Nodファクター」と呼ばれる化合物を土壌中に放出し、植物側がこの分子を受け取ることで、根粒共生を開始させることが知られています(図2)。Nodファクターは根粒菌ごとに異なり、この分子がいわば共生関係の「鍵」の役割を果たしていると言われています。Nodファクターの合成などに関わる遺伝子群についても同様に、採取した根粒菌の塩基配列を調べてみました。すると、これらの遺伝子については採取した根粒菌間で配列が極端に似通っており、さきほどの必須遺伝子群に比べて多様性が極めて低いことが明らかになりました。
このような違いが生じる原因として、水平伝播と呼ばれる現象が考えられます。水平伝播とは、遺伝子が親から子へ伝わるのではなく、個体間や他生物間において起こる遺伝子の取り込みのことです。ミヤコグサとの共生に必要な共生関連遺伝子が、日本各地の多様なMesorhizobium属根粒菌に水平伝播によって広まると、今回見られたような共生関連遺伝子の配列の類似が期待されます。
 近年のDNA解析により、ミヤコグサは数万年前にユーラシア大陸より移入し、日本列島で急速に分布を拡大したと推定されています。 Mesorhizobium属根粒菌は土壌中で自由生活もできますが、新しく日本に移入してきたミヤコグサと共生できるよう、日本土着のMesorhizobium属根粒菌がミヤコグサとの共生の「鍵」となる共生関連遺伝子群を水平伝播により獲得したという可能性が考えられます。

何の役に立つ研究なのか?

 マメ科植物に共生する根粒菌の遺伝子配列解析や、水平伝播の研究は以前から行われており、実際にミヤコグサでは、 Mesorhizobium japonicumという種と共生することは古くから知られていました。しかしながら、自然環境下の植物について、多数の地域のサンプルについて共生根粒菌を調べた研究例は数少なく、今回の解析からこのように植物1種に対して多数種の細菌が共生するという知見を明らかにすることができました。
 共生する根粒菌の多様性を明らかにできたことで、応用的な展開も期待されます。見つかった多様なMesorhizobium属根粒菌は、そのDNA配列が大きく異なることから、これらの根粒菌系統は窒素固定の効率など、植物の生育に与える効果も異なることが予想されます。これらの根粒菌系統を比較解析することで、今後マメ科農作物の生育により適した根粒菌を作出することができれば、化学肥料に頼らないクリーンで持続可能な農業の実現に活用されることが期待されます。

今後の計画は?

 現在、野生集団から採集したさまざまな根粒菌系統をミヤコグサに実験環境下で人工的に接種し、ミヤコグサの生育に与える影響の菌系統間での違いを調べています。今後、植物の生育を促す遺伝子を見つけるなどの発展も期待できます。

関連ウェブサイトへのリンクURL

研究室ウェブサイト
https://tsuchimatsu.wordpress.com

成果を客観的に示す論文や新聞等での掲載の紹介

Masaru Bamba et al. (2019) Exploring genetic diversity and signatures of horizontal gene transfer in nodule bacteria associated with Lotus japonicus in natural environments. Molecular Plant-Microbe Interactions. 32: 1110-1120
https://doi.org/10.1094/MPMI-02-19-0039-R
新聞報道:「千葉大、マメ科植物は多様な根粒菌と共生、新たな菌開発に有用」2019.07.29 化学工業日報

学生や若手研究者へのメッセージ

 この研究は、当研究室の大学院生の番場大さんがすべて主導し進めてきたものです。大学院では、本人の頑張り次第で学生でも著名な国際誌に論文を発表したり、プレスリリースをしたりすることができます。ぜひ志ある学生さんに挑戦してほしいなと思っています。

番場大さん(大学院生,共同研究者)

図1:マメ科植物と根粒菌の共生関係。[写真A] ミヤコグサ(Lotus japonicus)。[写真B] ミヤコグサの根に形成された根粒。

図2:Nodファクターを介した根粒菌とマメ科植物の相互認識機構。植物の根から放出されるフラボノイドを根粒菌が受容するとNodファクターの合成、放出が開始される。菌の外に放出されたNodファクターを植物が検知すると植物内の根粒形成経路が活性化され、根粒菌との共生関係が開始される。