タンパク質と水と共溶媒の「三角関係」を解く方法を考案~タンパク質医薬品の開発に必要な膨大な計算コストの効率化に貢献~

2023年09月27日

研究・産学連携

岡山大学大学院自然科学研究科の中田乃愛 元大学院生(令和5年3月修士課程修了)、兵庫県立大学大学院情報科学研究科の岡本隆一特任講師、岡山大学異分野基礎科学研究所の墨智成准教授および甲賀研一郎教授、千葉大学大学院理学研究院の森田剛准教授、長浜バイオ大学バイオサイエンス学部の今村比呂志助教は、尿素やアルコールによるタンパク質の変性の分子メカニズムを、分子シミュレーションを活用したデータ解析により明らかにしました。
尿素はタンパク質の分離・抽出において必要な変性剤として用いられ、アルコールはタンパク質の働きのコントロールに活用されています。水に加えることで効果を発揮するこれらの添加物は共溶媒と呼ばれ、古くより利用されてきました。しかし、共溶媒効果の分子メカニズムは複雑で十分な理解に至っていません。今回の研究では、鍵となるタンパク質、水、共溶媒の三者の相互作用の「三角関係」を解く方法を考案しました。その結果、尿素はタンパク質の壊れた構造を好んでそれとの直接相互作用により吸着し、変性を促進する一方、2,2,2-トリフルオロエタノール(アルコールの一種)はαヘリックス構造に好んで直接相互作用することで、その周囲に集まりαヘリックス構造の安定化を導くことがわかりました。また水はいつも共溶媒と協力しながら、変性を誘導していることも発見されました。
本研究は8月25日、タンパク質科学会誌「Protein Science」にオンライン掲載されました。

  • 230927_coilprotain_001

    タンパク質の立体構造への共溶媒効果。
    タンパク質の正常な構造と壊れた構造は絶妙なバランスで保たれている。普通は正常な構造の方が、わずかに重みがある(比率が多くなる)ことを
    シーソーの絵で例えている。共溶媒によってどちらの構造に、どれくらいの重みがかかるかは共溶媒の種類によるが、その予測は困難である。